凪良さんの作品は、昨年本屋大賞を受賞した「流浪の月」、「私の美しい庭」に続いて3冊目だが、今回のは前の2冊とはかなり趣を異にした作品となっている。
「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」といういきなりのSF設定。同じような設定の小説に伊坂幸太郎さんの「終末のフール」があるが、あちらは8年後の衝突が確認されてから5年が経過した世界。地球滅亡までの時間が短いせいか、「終末のフール」に比べて疾走感のある、エンタメ寄りの作品になっている。
学校でいじめを受ける友樹目線の「シャングリラ」、実は友樹の生き別れの父であるやくざ崩れの友樹信士目線の「パーフェクト・ワールド」、友樹のヤンママの静香目線の「エルドラド」、そして平成の歌姫、作られたアイドルのLOCO目線の「いまわのきわ」の連作短編4作構成である。
いじめられっ子の友樹は、同級生の美少女・雪絵に、分不相応にも想いを寄せている。その彼女がLOCOのライブのために広島から東京に行くという。友樹は彼女を守るため、同行を決意する。
母親の静香は、恋人でやくざ崩れの鉄砲玉、信士の子供を妊娠した時、彼の暴力から生まれてくる子供を守るため、妊娠を告げずに彼の前から姿を消し、生まれた友樹を女手一つで育ててきた。
ひょんなことで信士と再会した静香は、友樹の力になるため、二人で友樹を追い、東京に向かう。
守るためと再会、息子の友樹を助けるために二人で東京に向かう。
未来を失い、滅び行く運命の中で崩壊していく社会。三人家族に雪絵を加えた4人は、そんな社会に抗いながら、最後を迎えるその日まで、明るく、逞しく、まっとうに生きる意味を模索し続ける。
一方で、恋人のプロデューサーの言うままに自分を曲げ、平成の歌姫といわれるまでに上り詰めたLOCOは、自分を捨てようとした恋人を撲殺してしまう。そして自分の原点の地・大阪で昔の仲間と最後のライブを行う。
想像したものとはかなり違ったが、面白いことは面白くて、数時間で一気読みできた。
混迷を極める社会は、今のコロナ禍の状況に少しだけ被る。自分は、環境がどうあろうと、平常心を失わず、当たり前の日常を過ごすことのできる人間でありたいと思った。