「アマテラスの暗号」(伊勢谷 武) 日本版「ダヴィンチ・コード」で古代史のラビリンスを彷徨う | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

アマテラスの暗号

 

元ゴールドマン・サックス(NY)のデリバティブ・トレーダー、ケンシ(賢司)は、日本人父との四十数年ぶりの再会の日、父がホテルで殺害されたとの連絡を受ける。父は日本で最も長い歴史を誇る神社の一つ、丹後・籠神社の宗家出身、第八十二代目宮司であった。籠神社は伊勢神宮の内宮と外宮の両主祭神(アマテラスと豊受)がもともと鎮座していた日本唯一の神社で、境内からは一九七五年、日本最長の家系図『海部氏系図』が発見され、驚きとともに国宝に指定されていた。父の死の謎を探るため、賢司は元ゴールドマンの天才チームの友人たちと日本へ乗り込むが…。写真、挿絵、図、地図、系図など豊富な資料を用いた、臨場感あふれる新感覚の歴史ミステリー・エンターテインメント!!(「BOOK」データベースより)

 

ダン・ブラウンの「ダヴィンチ・コード」シリーズの日本版のような本です。万人受けはしない、読者を選ぶ本であることは間違いありません。古代史好きの自分としてはまさにツボにはまったというか、主人公のケンシくんと共に、日本神話のラビリンスをさまよわせていただきました。

日本・ユダヤ同祖論なるものの存在は知っていましたが、食わず嫌いでトンデモ本の類と決めつけていました。しかしながら、渡来人集団の秦氏となると、自分は百済の王族の血統としか思っていませんでしたが、彼らがユダヤの失われた部族の末裔というのは、なるほどありえなくはない。ユダヤ人の集団なら、しぶとく何世紀もの間、祖先の習慣など、ルーツの記憶をとどめていたとしても不思議はありません。

秦氏が飛鳥時代から平安時代にかけて、日本の政治や文化の創造に大きくかかわっていたのは間違いないところで、その期間を通じて自然に彼らが日本に溶けこみ、やがて日本人のDNAの一部となったということなのでしょう。

 

神話や古代史の解釈はいろいろとできてしまうもの。大国主命の正体は、大和朝廷に征服された氏神たちの集合体で、饒速日もその一部、天照大神は、持統、天正、天明の三女帝の日本書紀、古事記編纂事業の過程で女神に書き換えられた、神武、崇神、応神、神の名を関する三人の天皇の出自の秘密等々、この本の説も、数多ある説の一つとして受容できるものです。

 

中国のスパイやモサドまで登場させてのサスペンス・ミステリーとしたのも良し。なにしろ諸説紛々、議論百出の古代史です。ノンフィクションとして自説を突きつけられるよりも、この方が説得力もあり、受容しやすい。解説や実際の写真がふんだんに取り入れられているので、どこまでが真実・定説なのか、いちいちググる手間も省けました。

惜しむらくは主人公のケンシ・リチャーディーさん。父と40年ぶりの再会ということなので、設定はトム・ハンクスばりの渋いおじさんなのでしょうが、その友人を含め、言動が軽くて、若者っぽい。恋愛要素もほぼ皆無。どうせならもう少し派手にしてしまった方が、小説としてさらに楽しめたかも。

 

いずれにしろ、納得の一冊であったことには違いありません!