「本格ミステリ」1位、「このミステリーがすごい!」2位、「文春ミステリー」2位、「ミステリが読みたい!」3位の話題作。「このミス」「文春」「読みたい!」が1位、「本格」4位の辻真先さんの「たかが殺人じゃないか」と、ミステリー界の話題を2分したこの作品ですが、超ベテランの辻さんとは対照的に、著者の阿津川辰海さんは本作がまだ4作目。
私は、リアリティや殺人の動機などの心理描写といった本来の小説の面白さを二の次に、ひたすらハウダニット、現場のトリック等にこだわる、いわゆる本格ミステリは苦手、阿津川さんの作品は、「紅蓮館の殺人」に続き2冊目なのですが、前作はあまりの本格ミステリ臭さに好きになれませんでした。
本作の全く趣向が違う短編4編。
「透明人間は密室に潜む」は、実在する透明人間病に罹患したヒロインが殺人を計画する、変則的な倒叙ミステリー、透明人間になれば何でもできそうなのに、実は生活するには不便で、犯罪も容易にはいかない。なぜか頭の中にピンクレディーの「透明人間」が流れました。
「六人の熱狂する日本人」は、アイドルオタク同士の殺人事件の裁判員裁判で、6名の裁判員全員が、偶然にも同じアイドルのオタクだったという設定のコメディ・ミステリー。アイドルに対する思いの深さで裁判員たちの判断が二転三転、「ウリャオイ!」の掛け声にも笑わされました。これが一番楽しめたかな。
「盗聴された殺人」は、異常に耳が良い女探偵見習いが、犯行現場で録音された盗聴テープから謎を解く。と言っても、探偵見習は実はポンコツで、実際に謎を解くのはパートナーの所長なのですが。
「第13号船室からの脱出」は、クルーズ船内で開催された犯人捜しのミステリー・イベント中に発生する誘拐・監禁事件の真相と捕らわれた少年たちの脱出劇。
どれも本格臭さは健在なのですが、それぞれの作品は多様で趣向も様々、小説としても面白く、程よい長さの短編だったこともあって、濃縮されたミステリーを楽しむことができました。
阿津川さん、「本格ミステリ」では4つの著作すべてがランクイン、名前も知られていましたが、これで一皮むけてメジャー・デビュー、ってところでしょうか。