「赤い指」(東野 圭吾) 母親の身勝手さが腹立たしい、東野さんらしいヒューマンミステリー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

赤い指

少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?

家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。(「BOOK」データベースより)

 

加賀恭一郎シリーズと言えば、ガリレオシリーズ同様、東野さんの代表作なのだが、既読は「新参者」と「祈りの幕が下りる時」のみ。シリーズの中でも評判の高いこの作品が未読になっていた。

直木賞受賞作の「容疑者Xの献身」同様、本作も倒叙ミステリーであるがその動機はまるで反対。息子が幼女を身勝手な理由で殺害、その同情の余地がない、人間失格の犯罪に、母親が隠蔽を主張し、父親が死体を遺棄する。真犯人の中三の息子はカスのような奴だが、その母親の八重子が輪をかけて腹立たしい、自分勝手で正義感のかけらもない、息子を覚悟もなくただ甘やかすだけのバカ親で、子の親にしてこの息子ありを絵にかいたような家族である。

次第に加賀ら警察に追い詰められ、父はとうとう同居している認知症の母親に罪を擦り付けようとするのだが、、、

鋭い洞察力で加賀が見抜いたものは、真犯人だけではなかった。はからずも捜査一課に所属する従弟の松宮とペアを組むことになった加賀が、その従弟の前で事件の全貌を明らかにしていくのだが、、

 

このシリーズの魅力は、加賀自身の生い立ち、家庭の事情が謎めいていて、事件と絡み合いながら徐々に明らかにされていくところにある。本作で末期がんで息を引き取る加賀の父の覚悟と、それを受け入れた加賀の覚悟も見事で、東野さんらしいヒューマンミステリーに仕上がっている。