助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。そして育児中の奈津子も、母や夫、社会となじめず、紗英を心の支えにしていた。そんな2人の関係が恐ろしい事件を呼ぶ。紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。「犯人」は逮捕されるが、それをきっかけに2人の運命は大きく変わっていく。最後まで読んだらもう一度読み返したくなる傑作心理サスペンス!(「BOOK」データベースより)
芦沢さん好きな作家さん、本作はオカルト、ホラー色はほとんどないものの、ねっとりとした不気味さは健在、やはり彼女のサスペンス・ミステリーははずれがない。
紗英、奈津子、そして第三者の証言、3つの視点が入れ替わりながら物語は進んでいく。証言から二人が何らかの重大な事件を起こしてしまったことが分かるが、肝心の事件の全貌が中々明らかにされない。
さらに、紗英と奈津子の関係がはっきりしない。前半を読み進んでいるうちは鞠江を加えた三姉妹のようにも思えたが、やがて紗英と鞠江が二人姉妹であることが分かる。こんな感じに、叙述トリックあるある感満載で話は進んでいく。
妹の鞠江と違って、気が弱く、周囲に良い顔をしてしまう紗英は、子供ができないことに悩み、また夫の不倫の証拠を掴んでも、夫を問いただすことができない。そんな彼女に親身になって相談にのる奈津子、奈津子を頼りながらも、専業主婦で子供もいる彼女に時として反発も感じる紗英の複雑な心情が垣間見える。
それではこの二人は、幼馴染とか、仲の良い友人なのか。208ページ目、全体の7割ほどのところで種明かしがあるのだが、これはほぼ予想された結果であった。でも叙述トリックに引っかからぬようにと色々と想像をめぐらした分、事件の真相の方に気が回らなくなっていた。ミステリー作家・芦沢さんの思うつぼに嵌ったということだろうか。
肝心の事件の方は、浮気者の紗英の夫の失踪、奈津子に付き添われた紗英が警察に失踪届けを提出するのだが、ほどなく遺体が発見され、殺人・死体遺棄事件となる。死因はアナフィラキシー・ショック、さて、事故か、殺人か?死体を遺棄したのは誰?ということで、ここからは東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」ばりの展開を見せるのだが、何とも言えないねっとりとした読後感は、感動とは程遠い。