「歪んだ波紋」(塩田 武士) 虚報・誤報に纏わる人の脆さと狡さ。新聞、TVのリテラシーを問う一作 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

歪んだ波紋

グリコ・森永事件を描いた話題作「罪の声」の著者である塩田武史さんの最新作で、今年の吉川英治文学新人賞受賞作品。

舞台は近畿新報という地方紙、同社の記者または元記者を主人公にした、新聞社、TV局の誤報、虚報に纏わる5編の連作短編集である。Webニュースに比べていかにも古い新聞、TVのレガシーメディアの体質と、それに係わる人間の脆さ、狡さが浮き彫りにされている。

「黒い依頼」は、社内の特別チームからの依頼で轢き逃げ事件を追う遊軍の中堅記者が、特ダネ欲しさに社内で意図的に虚報が行われている事実に直面、愕然とする。自分も虚報に巻き込まれ、ひき逃げ事件の被害者をひどく傷つけてしまう。

続く「共犯者」では、定年を迎えた全国紙の元記者が、自殺したかつての同僚の遺志を継ぎ、三十三年前の事件の真実を追う。遺された資料から真実に迫る元記者・相賀の記者魂に再び灯る。

三本目の「ゼロの影」では、同僚と社内結婚したため閑職に回されて退職した全国紙の元女性記者が、身近で起きた盗撮犯罪のもみ消しに気づく。盗撮犯は警察の大物の息子、昔取った杵柄で記者クラブと警察の結託に迫るも、沈黙せざるを得ない事実に直面する。

四本目「Dの微笑」では近畿新報の支局のデスクが、あるテレビ番組のやらせに気づく。そして最終話の表題作が、前の四篇とつながっていく。「Dの微笑」で許英中っぽい人物の話が登場するので、グリ森に続き本作はイトマン事件?と思わせておいて、最後は予想の上をいくどんでん返し、思いもよらぬ虚報のワナに、二本目の「共犯者」の主人公・相賀の「記者は現場やで」のことばが重い。

時代遅れとなりつつある新聞やTVにおけるメディア・リテラシーの在り方に真摯に向き合う、ハードボイルドな一作である。