「ひとつむぎの手」(知念 未希人) 医局を巡るドロドロ? いや、実は熱いお仕事小説! | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

ひとつむぎの手

 

大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば…。さらに、赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。個性的な研修医達の指導をし、告発の真相を探るなか、怪文書が巻き起こした騒動は、やがて予想もしなかった事態へと発展していく―。(「BOOK」データベースより)

 

大学病院の心臓外科の話。心臓外科と言えば、5年ほど前になるが、私の父が僧房弁置換と環状動脈のバイパス手術をやった。5時間にも及ぶことが予想された手術で、高齢のため随分と心配したのだが、「統計では90%以上の成功率、自分の自信は100%」と言い切った執刀医の先生が頼もしく、またかっこよかった。おかげで私の父は90歳になった今も生きている。

 

で、本作であるが、研修医を入局させられなければ沖縄へ飛ばされるとか、怪文書の犯人を見つければ希望先に異動できるとか、医局を巡る白い巨塔ばりのドロドロ、と思わせておいて、「神様のカルテ」や「コードブルー」のような、医者のあり姿を問う、かっこよくて熱い作品に仕上がっている。

 

私利私欲のない人なんていない。自分の夢をかなえるためには競争を勝ち抜かなければならない。時として他人を蹴落とさねばならない時もある。でも、それにもまして大切なものもある。

後輩を指導することの大切さも改めて感じた。相手は実力もないくせに生意気な青臭い若者である。小手先の技術ではなく、仕事の本質や自らの信念を示し、本音でぶつからなければ彼らの心を動かすことはできない。人事を行う時は、好き嫌いやえこひいきを排除し、真に適任と思う者を選ぶ。悩んだ末の最終判断のよりどころになるべきものは医者としての使命感、これを忘れなければ、同じ志を持った人が必ず見ていて、理解し、評価してくれるはずである。

これは医者に限らない。どんな仕事でも「初心忘れるべからず」、この作品はお仕事小説としても読みごたえがある。

 

今年の本屋大賞ノミネート本。結局8位だったのだが、自分だったらもっと上位に押すかも。