第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にてパルムドール賞を受賞した『万引き家族』を是枝裕和監督自ら小説化した本。僭越ながら、なかなか良く書けていると思う。映画のキャストに脳内変換しながら読んだ。映画は旅行中の機内で見た。食事しながらとかで今一つ集中できていなかったので、映画の補強になった。
東京の下町だろうか。治と息子の祥太は、万引きをした帰り道、虐待され閉め出されていたゆりという少女を家に連れて帰る。 そして祖母の初枝、信代の妹の亜紀にゆりを加えた6人の家族としての生活が始る。
貧しい家族の生計は、2か月で11万円ほどの初枝の年金と信代のクリーニング店でのパート代、治も時々日雇いの仕事をしているようだ。亜紀はお触りなしのライトな風俗店でバイトしている。そして治と祥太の仕事は万引き、治は家族の絆として、ゆりにも万引きの手伝いをさせるが、祥太はそれが気に入らない。
話が進むにつれて、どこか善悪の基準が麻痺したこの奇妙な家族の秘密が明らかになっていく。案の定であるが、この家族に血のつながりはない。社会からはじき出され底辺で生きる人たちの繋がりは、成り行きか、偽善か、それとも本物なのか。
初枝の死をきっかけにこの家族は崩壊する。亜紀の実家から初枝が金をたかっていた事実に亜紀は傷つき、駄菓子屋で「妹に万引きをさせるな」と注意された祥太はわざと万引きを見つかって捕まり、信代は年金の横領と死体庭に初枝を埋めた遺棄の罪を一人で背負って逮捕される。
後半、家族で海水浴へ行くシーン、浜辺ではしゃぐ5人を見守る祖母の初枝。この時初枝が声にならないつぶやきを発する。映画ではそれに気づかず、後にバラエティ番組でそれが初枝役の樹木希林さんがアドリブで「ありがとう」とつぶやいたのだと知る。このノベライズ本にもそのシーンが描かれているが、この映画の一番象徴的なシーンは、是枝監督ではなく樹木さんが作ったということになる。
正直映画を見たときはちょっと退屈な話だななどと思てしまったのだが、今この本を読んだ後もう一度映画を見れば、カンヌ映画祭でパルムドール賞を取ったこの映画の神髄が分かるのだろうなぁ。