時は平安時代、「童」と呼ばれる者たちがいた。といっても、現在の「わらべ」という語感とは全く違う、まつろわぬもの、化外の民の総称で、鬼、土蜘蛛、滝夜叉、山姥などとさげすまれていた。
その中でもとりわけ悪名が高いのが大江山の酒呑童子という鬼の首魁。本作はいつの間にやら京人から酒呑童子と呼ばれるようになった越後出身の桜暁丸が主人公。皆が手をたずさえて生きられる世を熱望し、圧倒的な武力を誇る朝廷軍に決死の闘いを挑み、散っていった者たちの物語である。
この小説でのヒール役は一般的に平安時代のヒーローとされている源頼光の四天王、渡辺綱、坂田金時、卜部季武、碓井貞光。従来の善玉と悪役を逆転させた痛快なピカレスク・ロマンであり、人としての矜持をもって絶望的な闘いに身を投じた者たちへのレクイエムである。その他にも安倍晴明や藤原道長、平安時代のオールスター・キャストで贈る疾走感あふれる歴史エンタメ。第156回の直木賞候補になった作品に垣根涼介さんの「室町無頼」があったが、その平安時代版みたいな作品だった。
さて、これで、「宝島」「ベルリンは晴れているか」「熱帯」「信長の原理」、第160回の直木賞候補となった5作品をすべて読了した。ホントは賞が発表になる前に全部読んで受賞作を予想といきたかったのだが、なかなかそうはうまくいかない。後出しじゃんけんみたいになるけど、この中ではやはり賞を取った「宝島」が群を抜いているかな。あえて対抗を上げるとすれば、自分は本作を押します。木下昌輝さんに続き、とても楽しみな歴史小説、時代ものを書く作家さんが登場した。