「叙述トリック短編集」(似鳥 鶏) 「読者への挑戦状」がくせもの、軽妙な叙述ミステリー短編集! | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

叙述トリック短編集


『この短編集はすべての短編に叙述トリックが含まれています。騙されないよう、気をつけてお読みください。』、まえがきに代えた「読者への挑戦状」でこの本は始まる。

扇情的な挑戦状は以下の通り続き、ミステリーマニアのファイトを掻き立てる。『最初に「この短編集はすべての話に叙述トリックが入っています」と断る。そうすれば皆、注意して読みますし、後出しではなくなります。問題は「それで本当に読者を騙せるのか?」という点です。最初に「叙述トリックが入っています」と断ってしまったら、それ自体がすでに大胆なネタバレであり、読者は簡単に真相を見抜いてしまうのではないでしょうか? そこに挑戦したのが本書です。』

 

「ちゃんと流す神様」「背中合わせの恋人」「閉じられた三人と二人」「なんとなく買った本の結末」「貧乏荘の怪事件」「ニッポンを背負うこけし」、6編の短編で起こる事件は相互に関連性はない。「最終話などは、、、」「その前の話は、、、」と、一つ一つの短編に付されたヒントが変なのは気づけたけど、「一人だけ、すべての短編に同じ人物が登場している」という挑戦状の中の一行(ご丁寧に太書き文字になっていた)にトリックが隠されていたことは気づかなかった。なんともミステリー作家というやつは、油断も隙もあったものではない。

すべての短編に出てくる「別紙」という妙な名前の探偵役。トイレ、IT周辺機器、駄菓子、きしみ音、座席、奇妙で多彩な趣味を持ってんだなーって思ってしまった。個々の短編は、ひねりのきいた日常系のミステリーなのだが、それに気を取られると全体が見えなくなる。

 

中々に軽妙で楽しい作品。すっかり騙されたけど、読後感は悪くない。