ようやく9巻。既刊は10巻、続巻があるのかはまだ確認できていないが、長いつきあいとなったこのシリーズもいよいよ終盤!
20世紀の欧州っぽい並行世界で世界大戦が勃発、その世界のドイツぽい「帝国」に現代日本のサラリーマンから孤児の女児として転生したターニャ・デグレチャフが、その魔導戦士としての才能と前世の知識・経験を使って活躍するお話。そのラノベ的な舞台設定にもかかわらず、戦時の国家意思や外交、斬新な兵器、詳細な戦術や兵站などが仔細に描写されており、かなりレベルの高いミリタリー小説に仕上がっている。
「帝国」は、フランスっぽい共和国の首都を占領するもレジスタンスは止まず、東からはロシアっぽい共産主義の「連邦」、西からはイギリスっぽい「連合王国」の攻勢を受け、イタリアっぽい同盟国のイルドアには日和見を決め込まれ、四面楚歌の状態。
東部戦線から帝都へ帰還したターニャが目にしたものは、激烈に損耗した祖国の姿。物資は滞り、兵士が屍となって帰還してもなお、非日常な日常に麻痺した帝国最高統帥会議も、そして世論も、ただ目的としての勝利を渇望する。
マッドサイエンティストのシューゲルが開発した人間魚雷に乗って、地中海の制海権を握る連合王国の大艦隊を屠るターニャの二○三航空魔導大隊、ラインの悪魔、幼女の皮を被った悪魔の実力は健在である。
でも、いくら死力を尽くして目の前の戦いを勝利したところで、出口のない戦争は終わるどころか激化の一途をたどる。戦争終結のためには、もはや戦争を継続しようとする奴らに鉄槌をくれてやるしかないのか。ターニャの上司であるルーデルドルフ中将の胸に去来するのはクーデター?となると、有効な実行部隊はターニャの魔導大隊をおいてない。
軍隊は頭ではない、手足である。軍隊のプリンシパルは政治に関与しないこと。第二次世界大戦時の日本のように、軍部が政治にかかわるとろくなことにならない。しかしながら、軍隊のレゾン・デートルは祖国を守ることである。この二律背反のはざまで、さて、どうする、ターニャ?
ターニャにとって、陸軍は孤児である自分の唯一の立身出世の手段。その目的はエリートコースに乗り、戦略家として安全な後方勤務に就くことだった。今もそれは変わっていない。でも、自分の表層意識とは裏腹に、鍛え上げた部下とともに圧倒的な戦果を上げ続けたことにより、ターニャの内面も知らず知らずのうちに変化していた。同盟国イルドアでの物見遊山の日々を退屈と感じてしまうターニャ。部下は自分を守る肉壁だとか言いながら、理想の上司さながら自らが最前線で一番危険な役目を率先する。これも戦場という非日常が彼女を成長させたということだろう。
”Omnes una manet nox”、ラテン語の副題の意味は、「すべては夜に向かっている」だそうで。夜=死、破滅、だよね。
いまや帝国は泥船、逃げるか、一緒に運命を共にするのか、それとも、、、
とにかく次巻へ。
もうすぐ劇場版も公開になる。楽しみ!