「金魚姫」(荻原 浩)直木賞作家の哀しい中国風ファンタジー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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金魚姫

ブラック企業でやりがいのない仕事に追われ、恋人にも去られ、半ば自殺を決意した主人公の潤が、夏祭りで気まぐれに金魚すくいで金魚をとった。リョウと名をつけたその琉金が、その夜、潤の部屋に、赤い衣をまとった謎の美少女が現れる。金魚の化身の少女は記憶をなくしていた。突然始まった奇妙な同居生活に、徐々に幸せを感じるようになる潤。

 

一方で、読者は、この少女が、悪辣な官僚に婚約者を無残に殺され、自らも無理やりに嫁にされそうになり、池に飛び込んだ少女であるという、少女自身も知らない事実を知る。そして、少女はどうやら千年以上転生を繰り返しているようである。愛しい人を殺されたリョウの転生の目的が時を越えての復讐であることが、徐々に明らかになっていく。

そして「すべては繋がっている」という謎の老人のことば。現世に現れた人魚姫のターゲットが誰であるか想像ついてしまい、読み進めるのが辛くなる。

 

潤の故郷の長崎のホテルで、リョウは潤を誘い身体を重ねる。自らの運命と感情の狭間で揺れる心。

ラストは、どう解釈したらよいのだろうか。やっと過去から解放され、魂は昇華した、ハッピーエンドである、そう思っていいのか。そう思うには薄幸すぎる金魚姫の人生ではある。

直木賞作家、荻原浩さんの描く中国風ファンタジー。ストーリー自体は特に意外なものではないが、読ませる作品である。

 

余談であるが、年末年始で香港を旅行、「海洋公園」という遊園地に金魚の水族館があった。この本にも出てくる金魚の祖先「ヂイ」もいて、ちょうどこの本を読んでいる時だったので、興味深かった。

海洋公園