『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』(磯田 道史)独特の史観とリアルなキャラ創作で紡ぐ司馬さんの歴史 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

司馬遼太郎で学ぶ日本史

司馬遼太郎、昭和以降で日本人に最も影響を与えた、国民的歴史作家といっていいだろう。私も司馬さんの作風は大好きで、長編はほぼ全部既読。この本で紹介されている「花神」「竜馬がゆく」「坂の上の雲」と、絶筆になった歴史エッセイの「この国のかたち」は特に好きな作品だ。「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」「坂の上の雲」と読み繋げば、幕末から、明治日本が近代国家として成長していく様を描いた壮大なヒストリーであり、討幕が長期的なビジョンもなく勢いで行われたクーデターであり、明治政府がいかに綱渡りで近代国家を築き上げたかが読み取れる。

 

司馬さんが好んで取り上げる時代は戦国時代と幕末、歴史の変革期、歴史上の価値観の転換期である。その変革、転換の推進役となった人物や、過去の価値観に殉じた敗者が、「こういう人であったろう」とかなり決めつけられて描かれている。一方で歴史的事実についてはかなり細部まで史伝的であり、それを根拠とした彼の決めつけは、おそらく当たっているのだろうと思わせる。人物像は、際立っていて、魅力的で、リアルである。

 

既存の体制が環境の変化の中で軋み、既成の概念が矛盾を露呈してしまう、抗いがたい歴史の流れがある。そんな歴史の中で、新たな価値観が創出され、継いで行動家・革命家が現れ、最後にその果実を享受するものが現れる。そして革命が成就したそばからリアリズムを失って組織の衰退が始まる。繰り返す歴史の潮流を強く意識しながら、司馬さんは、信長や大村益次郎を合理主義者、秀吉や坂本龍馬を人たらしの行動家として描く。

個人的には、変革の推進役となった合理主義者より、源義経、土方歳三、河合継之助、西郷隆盛、卓越した人材でありながらも大きな欠点を持つ、あるいは勝馬に乗ることを潔しとせずに自ら破滅の道を歩んでしまう、彼の描く敗軍の将が好き。