「紀州のドン・ファン」(野崎 幸助)「美女4000人に30億円を貢いだ男」の不審死に想う | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

紀州のドンファン

数か月前、ワイドショーを賑やかした自称「紀州のドン・ファン」の覚醒剤中毒死。50歳以上年下の妻に財産目当てで殺されたかのような報道であったが、その後妻が逮捕されたとは聞かない。この本には、覚せい剤はもちろん、バイアグラ等の薬も飲んでいないと書いてあったが、エッチのために自ら覚醒剤に手を出してしまったのだろうか。殺人か、それとも事故死か。真相は未だ藪の中である。

死因の憶測はともかくとして、若くて美しい女とエッチをしたい、ただそれだけのために金持ちになった地方出身の実業家の一代記はなんとも型破りである。野崎幸助は昭和16年の和歌山県田辺市生まれ。14歳で初体験、中卒後就職した会社にさっさと見切りをつけ、コンドームの訪問販売をを始める。売るためには誘われるまま実演も辞さず、高度成長期前夜の地方の性は、なんとも牧歌的である。この農家の主婦を相手にした若き日の性体験が、彼を20代の大柄でグラマラスな女性にしか食指が動かない男にしたのであろうか。

長じて消費者金融で財を成すと、その金を惜しげもなくナンパに使う。「ハッピー・オーラ、ハッピー・エレガント、ハッピー・ナイスボディ、あなたとデートしたい、あなたとエッチしたい」、好みの女性を見つけると、意味不明の口説き文句とともに1万円札をはさんだ名刺を渡し、付き合ってくれたら40万円と囁く。何とも品のない、女性を性欲の対象としか見ないその性根には全く賛同できないが、ギャグ漫画のようなキャラ、助平男の一代記としては、これはこれで実に面白い。

彼の名を世間に知らしめた事件が起きたのは16年2月、50歳近く下の交際女性に6千万円を持ち逃げされたとワイドショーで騒ぎになった。レポーターが本人を直撃すると、傍らにはすでに別の20代の女性がいた。曰く、「事件は交際した4千人の女性の中の一人のこと。人生に必要なのはガッツ。それと女性の癒やしです」

著者の死を、女性を欲望の対象としてしか見れない哀れな男の末路と思ってこの本を手に取ったが、なるほど違うのかもしれない。金で女をモノにし、逆に女に騙されて金をとられても全く懲りないドン・ファンにブレはない。

遺産は、妻にではなく、全額地元の田辺市に寄付するという遺言書が見つかった。どうやら奥様にもエッチ相応以上の金を渡す気はないらしい。老いて自分が自分でなくなることを拒み、最後まで自分であろうとした男は、ある意味あっぱれでもある。