「ナラタージュ」の島本理生さんの直木賞受賞作である。
女子大生・聖山環菜(ひじりやま かんな)は、彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。
なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか? 臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉(あんの かしょう)とともに、環菜や周辺の人々への面談を重ねていく。
「ファーストラヴ」というタイトルから想像していた話とは全く違った。
ホワイダニットの倒叙ミステリ、しかも被疑者の環菜自身が自分の父殺しの動機を分かっていない。同じような過去を持つ臨床心理士の由紀がホームズ役となって、何やらワケアリっぽい義弟の迦葉と容疑者の心理を探るという、かなり風変わりなミステリーである。
自責の念から自傷行為を繰り返していた環菜、絶対君主であった父親、娘を案ずるどころか裁判では検察側の証人に立つ母親、異常な家庭の状況が次第に明らかになっていく。それと同時進行で明らかになっていく由紀と迦葉の関係は愛情と憎悪のアンビバレンス。そして彼らの環菜への思い入れは似たような境遇を持つものゆえなのだろう。
だいたいこういう話って、幼児期の父からの虐待、それも性的な、ってパターンが多いんだよねと思いながら読み進んだのだけど、まあ、当たらずとも遠からず。迦葉と由紀の過去のいろいろも想像の範囲内というか、割と平凡だった。
それにしても、母親を筆頭に周囲の大人が気持ち悪い。不幸にもアブない少女になってしまった環菜に、スケベ心抜きで真剣に手を差し伸べる大人はいなかったのだろうか。陪審員裁判の結末もなかなかに腑に落ちない。由紀の旦那様の我聞さんの優しさが救い。
それにしても、この話のタイトル、なぜ「ファーストラヴ」?