デビュー作の「宇喜多の捨て嫁」が面白かったので、タイトルからその続編と思い、手に取った。
前作の主人公である戦国の梟雄、宇喜多直家は小説の序盤で病死、この本の主人公はその嫡男、宇喜多秀家。この人、歴史的には父よりはるかに高名である。豊臣家の五大老にして、関ケ原で西軍に組し、敗軍の将として流罪になった。父とは打って変わって裏切りをしなかった彼が、歴史の流れに逆らい、義に殉じる姿を描く。
幼少期は子のなかった秀吉に我が子同然に育てられたという印象を持っていたが、そこは木下昌輝、秀吉の悪辣さを描くのも忘れない。
そして秀吉の死後、家康に向かう歴史の流れにも我が道を行く秀家だが、家臣団にも徳川方の調略の手が及び、宇喜多家は二つに割れれしまう。印象的なのは宇喜多直家の弟、秀家の叔父にあたる宇喜多左京亮、やがては徳川方につき、坂崎と名を変えて、大坂夏の陣では大阪城から千姫を救い出すその人である。悪辣で蛮勇の武者として秀家とは対照的な人物に描かれている。
関ケ原というと「天下分け目」の大合戦というイメージがあるが、中山道を進んだ秀忠の本隊が上田で真田に足止め、遅参したにもかかわらず、西軍は黒田長政らの調略に裏切り、日和見が相次ぎ、実際の戦力は東軍11万に対し西軍は3万に満たない。その中で、唯一1万7千の軍勢を絞り出し奮戦する秀家、しかしながら彼我間の圧倒的な戦力差に、西軍は半日も持たずに蹂躙されてしまう。
父とは対照的に義に殉じた宇喜多秀家、それでも若き日の善行の因果で落ち武者狩りで敵方に命を救われ、配流先の八丈島で穏やかな晩年を送ることとなった秀家に、ある種の爽やかさも感じる。
これも一つの戦国のカタルシスか。