女は軽井沢宿で飯盛女をしていたが、江戸に逃れて夜鷹となり、唐瘡に罹ってしまう―「千代」。
歌舞伎の戯者になることを希う男児は、京から下り、希望とは裏腹に江戸の陰間茶屋で育てられることに―「吉弥」。
貧乏長屋に住み、町芸者に入れ込んで借金を背負った浪人の男は、女房の不義密通を疑うのだが―「長十郎」。
八丈島に住む娘は、御用船で送られてきた女犯僧らしき流人と懇意になる―「登勢」。
濡れ衣の人殺しで入牢した男は、覚悟の準備をするのだが、そこで地獄の光景を目にし、自らも責問を受ける―「次二」。
天明六年元日に起きた皆既日蝕を背景に、暗黒の死を描く全五編の時代小説集。
(「BOOK」データベースより)
今年の柴田錬三郎賞受賞作ということで手に取ってみたのだが、、、いやなものを読んでしまった。皆既日食とともに命を落とす5人の男女。それぞれが、これ以上悲惨な人生はないのではないかと思える人生を、時を同じくして終える。
いや、単に悲惨というのでは足りない。凄まじい、身の毛もよだつ、饐えた匂いのする人生。エロくて、グロくて、キモくて、読後感はとても悪い。
でも、大変印象に残る作品であることは間違いない。怖いもの見たさ?くさやのように癖になる作品かもしれない。
それにしても、柴田錬三郎賞って、どういう選考基準なんだろうって思ってしまう。
今まで読んだ受賞作は、「赤へ」(井上荒野)、「かたづの!」(中島京子)、「横道世之介」(吉田修一)、「ダブル・ファンタジー」(村山由佳)、家日和(奥田英朗)、ものの見事にばらばら。
主宰する集英社によれば、「現代小説、時代小説を問わず、真に広汎な読者を魅了しうる作家と作品」が選考基準ということなのだが、うーん、少なくともこの作品は、広汎な読者には評価されないと思う。