悲劇なんかじゃない これがわたしの人生。極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。
数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが…。
(「BOOK」データベースより)
第48回吉川英治文学賞受賞、14年の文春ミステリー第2位作品である。
一気読みしてみて、「容疑者Xの献身」と並ぶ東野ミステリーの最高傑作と思った。
加賀恭一郎シリーズ10作目にして、冒頭より加賀の母親が登場、これが後の事件の謎解きのカギになる。
東京・小菅のアパートで、滋賀県在住の押谷道子の腐乱遺体が発見された。道子は中学の同級生で演出家の浅居博美を訪ねた後に殺された。アパートの住人、越川は失踪、一方で遺体発見現場に近い新小岩ではホームレスが焼死していた。
浅居博美は、捜査にあたる捜査一課の松宮の従兄、加賀恭一郎と知り合いだった。松宮の相談に乗る加賀が推理を展開していく。。。
女性演出家・浅居博美とその父の過酷な人生、そして父娘愛が哀しい。
偽名を使い、正体を見破られないようひっそりと生きた浅居忠雄が、唯一他人と持った係わり。母の死から真相を手繰り寄せた加賀警部補の謎解きも見事だが、本来はきっと善良であろう父娘がみせた優しさが、あだとなってしまったということか。
自分は、ミステリー好きの割に本格ミステリと呼ばれるものが何となく苦手。雪山の山荘や嵐の孤島、密室のトリックとか、フーダニット、ハウダニットばかりに焦点をあて、肝心のホワイダニットをなおざりにされると、小説ではなくなぞなぞを読んでいるような気になってしまう。
その点、本作のような、犯行動機が確りと書かれたヒューマンドラマ仕立てのミステリーはじんと心に来る。
本当に小説を読んだという気がする。