「天才」(石原慎太郎) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

天才

反田中の急先鋒だった石原が、今なぜ「田中角栄」に惹かれるのか。

幼少期のコンプレックス、政界入りのきっかけ、角福戦争の内幕、ロッキード事件の真相、田中派分裂の舞台裏、家族との軋轢…。毀誉褒貶相半ばする男の汗と涙で彩られた生涯!

(「BOOK」データベースより)

 

今にして思えば、田中角栄は、地に足が付いた想像力、VISIONのある政治家だった。

適度な談合や賄賂が必要悪としてまかり通っていた時代に今日の日本の繁栄の基盤は作られたわけで、その中心には彼がいた。

 

高等小学校卒という学歴ながら「日本列島改造論」を引っ提げて総理大臣に就任すると、その比類なき決断力と実行力を発揮、日中国交正常化、関越自動車道、上越新幹線の整備、また30以上の議員立法を成立させるなど、激動の戦後政治を牽引した。
総理就任時には「庶民宰相」「今太閤」と国民に持てはやされ、最高の内閣支持率を得たが、常識を超える金権体質を糾弾され、やがて総理を辞任。その後、ロッキード事件で受託収賄罪に問われて有罪判決を受けるも、100名以上の国会議員が所属する派閥を率い、大平・鈴木・中曽根内閣の誕生に影響力を行使。長らく「闇将軍」「キングメーカー」として政界に君臨した。

 

それにしてもロッキード事件は不思議な裁判だった。確かにロッキードだか丸紅だかの金は田中の秘書に渡っていたのだろう。でも仮にも一国の首相が収賄とは?彼が全日空の旅客機の機種選定に直接的な影響力を持っていたとは到底思えないのだが、それでも地検は彼を検挙し、前例主義の裁判官は、前例を曲げて彼を有罪とした。

国益を考え、中国との国交正常化とイランからの石油輸入で米国の意に反した行動をとったがために田中は米国の虎の尾を踏んでしまった。

日本の首相は従順であるべきと考える米国は田中を危険視、策謀を巡らし、日本人の正義感を利用して、日本人自らの手で政敵を葬らさせたってことか。CIAの情報操作、恐るべし。米国の手の上で踊らされている国、日本。司法の独立はどこにあるんだろうか。

 

強烈な個性をもったリーダーが不在の今、自らも政治家として田中角栄と相まみえた著者が、毀誉褒貶半ばするその真の姿を「田中角栄」のモノローグで描いた。この作品は、はからずも米国の片棒を担いでしまった石原さんのカタルシス?