女優の藤吉弓香は、故郷で開催される同窓会の誘いを断った。母親に会いたくないのだ。中学生の頃から、自分を思うようにコントロールしようとする母親が原因の頭痛に悩まされてきた。同じ苦しみを抱えた親友からの説得もあって悩んだのだが…。そんな折、「毒親」をテーマにしたトーク番組への出演依頼が届く(「ポイズンドーター」)。
呆然、驚愕、爽快、感動―さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!
(「BOOK」データベースより)
「マイディアレスト」は、母に厳しくしつけられた独身処女の姉の、自由奔放に育てられでき婚までした妹に対する嫉妬が招いた悲劇。
「ベストフレンド」は、テレビの脚本新人賞で最優秀賞をさらわれたライバルに対する嫉妬がテーマ。
「罪深き女」は、子供時代に同じアパートの母親にネグレクトされていた男の子を面倒見ていた女が、その子が長じて凶悪な殺人事件を起こしたことを知る。
「優しい人」 は、優しい人になるように母に育てられた女性が、その優しさを気色悪い男に勘違いされ、追いつめられる話。
どれも最後にどんでん返しが用意されていて、「いやミスの女王」湊さんらしい短編に仕上っている。
でも、やはり唸らされるのは「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」、毒親をテーマに、母、娘、そして娘の親友の話が交錯し、真実が明らかになる。
思えば自分も小さい頃は「あれをするな」「これは危ない」と、母親にずいぶんと納得がいかないことを言われた記憶がある。いや、自分は男なんでまだマシだった方、妹は就職や結婚はもちろん、その他細かいことまでかなり干渉されていて、兄から見てもかわいそうだった。
まあ、子供なんて視野は狭いし考えは浅い、親の庇護がなければ何もできない存在で、親の言うことは聞かざるを得ない。でも子供は成長し、やがて親を超えるときが来る。野生の動物のように、ある時期が来たら自然に親離れ、子離れができれば、ややこしいことは起きないのに。
「ポイズンドーター」の藤吉弓香は、母の矛先をかわすために嘘をついてでもその場を取り繕うことを覚えた。でも所詮は子供の浅知恵、すぐにばれて余計に怒られ、さらにトラウマが積み重なる悪循環。
弓香は、その子供の心のままに大人になってしまった。積み重なった先入観から母を避け、逃げ、真実を見ようとしない。そして女優になり、歳も30歳を超えたときに突然反撃にでる。それも自分が得たマスメディアという武器を使って。
弓香の友人の理恵から見た母娘、はたして毒は母か娘か、そしてどこまでも外道な本当の毒親は誰か、、、まあそんな話だった。
さすがにすっかり子供たちが親離れした今、私の母は病を得て少し体が弱くなった父に「外出するな」とかうるさく言っていて、わが親ながら「性癖はちっとも変わらないな」と、少し可笑しくなった。