長年連れ添った妻・夏子を突然のバス事故で失った、人気作家の津村啓。悲しさを“演じる”ことしかできなかった津村は、同じ事故で母親を失った一家と出会い、はじめて夏子と向き合い始めるが…。
突然家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか。人間の関係の幸福と不確かさを描いた感動の物語。(「BOOK」データベースより)
幸夫が会社を辞めてから小説家として身をたてるまでの10年間を支えてくれた妻、夏子。しかし、衣笠幸夫から小説家・津村啓となった彼は身勝手極まりない男となった。昔の自分を知っている夏子を疎ましく思うようになり、ふたりの間は完全に冷め切っていた。そんな彼が、突然の事故で妻を失う。
妻が死んでも悲しめない幸夫は、カメラを向けられると妻を亡くして悲嘆にくれる男を演じるしかない。そんな彼が、自分とはまるっきり正反対の、妻を亡くした喪失感に身悶えする大宮一家と出会い、ふれあい、少しずつ変わっていく。
永い言い訳とは、妻を愛せなくなっていたことに対するものか、妻を亡くしても悲しめないことに対するものなのか、演技を続けて周囲を欺いていることに対するものなのか。
妻のケータイの送られなかった自分宛のメール「もう愛してない。ひとかけらも」を見つけた時の幸夫の、ああやっぱりと思いながらも、現実に愕然とする気持ち。仮面を捨てて感情を開放しないと、何も前には進めない。
自分は、幸夫の気持ち、すごくわかってしまう。すごくわかってしまうだけに、実に身につまされる小説である。
時が忘れさせてくれることもあれば、失くしてしばらくしてやっとわかることもある。
幸夫みたいな境遇に置かれたら、自分もきっと、言い訳から卒業するのに長い時間がかかってしまうような気がする。
本作は、昨年の直木賞、山本周五郎賞の候補となり、また15年の本屋大賞でも第四位となった。この小説が相応に評価されたということは、自分みたいに幸夫に理解や共感をしてしまう男がそこそこはいるということなのだろうか。
著者の西川美和さんの本職は映画監督、ご自身がメガホンを取って、本木雅弘主演で映画になった。こちらはまだ未視聴、ぜひ映画でも見てみたい作品である。