(あらすじ・内容)
瀬戸内海の小さな島、冴島。 母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父に東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに思うように練習に出られない新。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、 島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。17歳、ともにすごせる最後の季節に、故郷を巣立つ前に知った大切なこと、すべてが詰まった傑作。
(感想)
瀬戸内海の小島、冴島では大人になるということは故郷を巣立つということを意味します。
高校を卒業すると、ほとんどの人は本土へ行く。確実に、仲間との、そして家族との別れが待っています。衣花、朱里、源樹、新の4人組も、衣花は網元の娘の宿命で島に残る、それは4人でいられる時間がもうあとわずかということ。
ユーミンの歌で「瞳をとじて」というのがありましたよね。衣花の想いはあんな感じでしょうか。
単純に、島の高校生たちの爽やか青春物語、というわけでもない。
島はの人間関係は結構複雑で、訳アリの若者やシングルマザーなどのIターン組にも、おせっかい焼きでプライバシーを詮索する島の人と、人間関係をうまく作れる人とそうでない人がいる。
島の中の人間関係も、功名心の強い村長派との確執があって、結構田舎特有にドロドロしている。素朴にいい話ではないところが、妙にリアルで、重い。
そんな中で、次から次へと、これでもかと事件が起こり、最後にそれがつながっていきます。
でも読後感は最高に爽やか、心温まるお話でした。
辻村さん、こういうのも書けるんだなー、多彩な方だなと改めて思いました。