「名もなき毒」(宮部みゆき) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

名もなき毒


(内容)
今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、トラブルメーカーだった。
解雇された彼女の連絡窓口となった杉村は、振り回される。
折しも街では、連続毒殺事件が注目を集めていた。
人の心に巣食う毒を圧倒的筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。杉村三郎シリーズ第二弾。

(感想)
杉村三郎三部作、「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」の二作目。
三作とも小泉孝太郎主演でドラマ化されましたので、あらすじは知っていました。
06年の文春ミステリーで第1位を獲得した作品ではあるのですが、でも、宮部さんの作品の中では、代表作といえるほどではない、しかも結末を知っているミステリーをなぜわざわざ読んだのかといえば、やはり、原田いずみの圧倒的な存在感、でしょうか。
ドラマでは、江口のりこさんが迫真の演技でした。

原田いずみ


杉村三郎は、ミステリの主人公だけど、刑事でも探偵でもありません。サラリーマンです。
今多コンツェルンの総帥、今多会長の娘婿である彼に、今多会長が提示した結婚の条件は、閑職で、出世を望まずに勤務すること、決して経営に係ろうとしないこと、そして身体の弱い娘に、平穏な家庭と幸せを与えること。それは、杉村の望むところでもありました。
ところがこの杉村さん、どうも事件体質というか、おせっかいというか、気が付くとトラブルに巻き込まれている。

世の中は理不尽に満ちている。どうしようもなく毒をもった人がいて、善良な人はそれになすすばなくやられる。客観的な毒として、土壌汚染、シックハウス症候群がメタファー的に小説には出てきますが、人の毒の方が、どうにも始末がやりにくい。

しかも、その毒は伝染する。死穢のように。
この「名もなき毒」では、原田いずみの毒が、ついに杉村さんとその妻子を直撃します。
しかしまあ、それにしても、原田いずみの分けのわからなさはすごい。触れた人を傷つけずにはいられない、負のエネルギーの塊。
本筋の青酸カリの無差別殺人事件の印象がすっかり薄くなるくらいに。
これだけキャラ立ちした悪役を書ける宮部みゆきさんは、やはりすごい。

でも、ひとつだけ苦言をすると、この小説、文庫本で600ページ超、長いです。

本筋と関係のない、まったくもって余談ですが、小説とTVドラマの大きく違うところは、バイトのアシスタントが、ゴンちゃんじゃなくて、シーナちゃんが戻ってくるところ。シーナちゃん役は岡本玲さんでした。
個人的に絶対ブレイクする女優さんと思っていたのですが、なかなか主役が回ってこないですね。彼女ももう24歳、彼女の主役のドラマ、見てみたいなー。