「坊ちゃん」(夏目漱石) 日露戦争当時、古き良き時代の体現者が引き起こす痛快娯楽大作 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

 

坊ちゃん

 


お正月に、嵐の二宮くん主演のTVドラマ「坊ちゃん」を見て、「あれ?こんな平凡なお話だったっけ」と思ったのが、久々に再読したきっかけ。改めて「こんなに面白い小説だったんだ」って思いました。

以下、独断と偏見に満ちた私の読後感想です。

やはり、昔の小説を読むときは、その小説が書かれた時代をざっくりでも把握しておくべき。小説にも戦勝記念式典の模様が描かれていますが、日露戦争ですよね。欧米諸国に不平等条約を押し付けられた極東の小国が、文明開化、富国強兵、必死に努力して独立を勝ち取り、世界の一流国の仲間入りをした、そんな時代です。
「坂の上の雲」の時代が終わり、拝金主義、立身出世、世の中の変化に連れて、人の価値観も変わっていきます。
時代の流れに乗る人と、「まてよ、それでいいのか」と思う人、夏目漱石は明らかに後者で、その古きよき時代の価値観の体現者として、主人公の坊ちゃん(とキヨ)を描いたのでしょう。

もうひとつのテーマは地域格差。これが実に面白おかしく、ユーモアをもって書かれています。
会話が実に楽しいです。坊ちゃんも、普段は一応標準語らしきものを話していますが、怒ると完全に江戸弁というか、下町言葉がでる。

それに対して生徒たちのなんともいえないのんびりとした方言、そのやりとり、その言葉遊びの面白さといったらありません。
なかなかTVドラマでこれを再現するのは、難しいでしょうね。

司馬遼太郎が「文明の配電盤」と呼んだ(東京)帝国大学、ここに高い俸給を払って外国人教師を招き、人を教育し、その教育した人を教師として地方に派遣する。
赤シャツは帝大卒みたいですね。本来であれば文明を配電しなければならないエリートが、未開の土地で、本分を果たさずに私利私欲に走る。
漱石自身も、帝大卒で、英語教師として松山に赴任していますから、そのときの経験がこの小説にも反映されているはず。きっと赤シャツみたいな人がいたのでしょう。
そんな赤シャツ、野だいこの品性下劣な謀略を、一刀両断、快刀乱麻、理屈抜きにぶち壊す痛快娯楽大作。
その話の内容に、漱石のテンポのよい文章がこれまたぴったりで、今読んでもそう思うのだから、当時としては、本当に新しい、すごい小説だったのだと思います。

この歳になって、やっと夏目漱石のすごさ、新しさが少しわかるようになってきました。