「燃えよ、剣(上・下)」(司馬遼太郎) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

燃えよ剣

あらすじ・内容)
幕末の動乱期を新選組副長として剣に生き剣に死んだ男、土方歳三の華麗なまでに頑な生涯を描く。
武州石田村の百姓の子“バラガキのトシ”は、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって、浪人や百姓上りの寄せ集めにすぎなかった新選組を、当時最強の人間集団へと作りあげ、己れも思い及ばなかった波紋を日本の歴史に投じてゆく。
池田屋事件以来、京都に血の雨が降るところ、必ず土方歳三の振るう大業物和泉守兼定があった。新選組のもっとも得意な日々であった。
やがて鳥羽伏見の戦いが始まり、薩長の大砲に白刃でいどんだ新選組は無残に破れ、朝敵となって江戸へ逃げのびる。しかし、剣に憑かれた歳三は、剣に導かれるように会津若松へ、函館五稜郭へと戊辰の戦場を血で染めてゆく。   
男なら、情熱のすべてを注げ! 「武士道」を貫いた土方歳三の美学。幕末小説の頂点。

(感想)
「なあ総司、おらぁね、世の中がどうなろうとも、例え幕軍が全部破れ、降伏して、最後の一人になろうとも、やるぜ」
数ある新選組ものの小説の中で、新選組副長として剣に生き、剣に死んだ男、土方歳三に焦点を当てた長編小説です。
司馬遼太郎さんの長編の中でも確実に5本の指に入る、大好きな作品で、久々に再読してみたのですが、やはり実に面白い。

幕末という、歴史、価値観の大転換期。「勝てば官軍」、徳川恩顧のはずの武士たちが、寝返ったり、日和見を決め込むその中で、あえて幕府に、というよりも時代に殉じた歳三。
作中で土方本人が語っているように、刀は刀であり、武力そのものに良いも悪いもない。問題は、それをどう使うか。それは政治家の仕事であり、武力を持った者が政治をやると、大体ろくなことにならない。
彼に政治はない。力として、ただ強くあることだけを貫いた土方歳三に男の美学を感じます。

とにかくラストがかっこよすぎる。
敗戦が決定的となった函館・五稜郭。「新選組副長が参謀本部に用ありとすれば、斬り込みにゆくだけよ」、死に場所を求めて単騎敵陣に奔る歳三。
昔、木原敏江さんの「天まであがれ!」という、沖田総司と土方歳三を主人公にした漫画があって、そのラストがまさにこのシーンでした。

天まで上がれ

損得に惑わされず、世の中に迎合することなく、単純に、ひたすら己の寄って立った価値観に殉ずる歳三。ただ強い力であり続けようとした男、土方歳三。

「義経」「峠」「燃えよ剣」、司馬さんの描く敗軍の将はキャラが立っています。