44年目の衝撃!「クルージング」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

44年目の衝撃!「クルージング」

 さてさて、超久しぶりの更新です。

 昨年の秋から家族や故郷のことでいろいろあり、SNSでプライベートなことを発信する気が失せていました。

 でも好きな読書や映画はやめられず、読んだり観たりはしていました。

 ようやく気持ちの区切りがついてきたので、ブログも再開することにしました。

 

 今回は映画について。さて、久しぶりの更新1本目の映画は1980年公開の「クルージング」。

 

 

 「エクソシスト」「フレンチ・コネクション」のウィリアム・フリードキン監督アル•パチーノ主演の作品です。

 なぜ今この映画を紹介するのか?というと、何と現在デジタルリマスター版がリバイバル公開中なのです!

 僕がこの映画を初めて知ったのは、1980年の日本公開時。当時は映画にハマり始めた中学生でした。その頃は能登半島の小さな町に住んでいたのですが、映画を映画館で観られるのは年に数回。その町にも映画館はあったのですが、僕が中学生になる頃には廃業していました。

 映画を観るためには鉄道で1時間ほどかかる金沢まで行かなければなりませんでした。そのため映画を観に行けるのは、正月とGWと夏休みくらいでした。

 もちろんインターネットはおろか、ビデオデッキですら一般家庭には普及していない時代です。そんな時代の田舎の映画少年にとって、映画を観る機会はテレビでの放映のみ。そして映画の情報を得るために「ロードショー」や「スクリーン」、「スターログ」といった雑誌を毎月買って貪り読み、映画の知識を取り込んでいました。

 その頃読んでいた映画雑誌の新作紹介で「クルージング」を知ったのでした。

 ウィリアム・フリードキンやアル•パチーノという名前は知っていたので、どんな映画だろう?と紹介文を読んでみました。

 舞台は当時のニューヨーク。ゲイの男性が切り刻まれて殺される連続殺人事件が発生。犯人を探るためアル・パチーノ演じる若い警官スティーブが、会員制SMクラブのゲイ・コミュニテイへの潜入捜査を命じられる。最初は渋っていたスティーブだが、刑事部への異動を示唆され、任務を受けることになる。

 ハードゲイの世界に最初は戸惑うスティーブだが、徐々にコミュニティに溶け込んでいき、犯人と思しき人物に近づいていく。その一方で捜査外での恋人との生活に違和感を感じ始め、精神的に追い詰められていく・・・。

 というのが大まかなストーリー。

 当時中学生だった僕にとっては、ハードゲイは初めて聞く言葉であり、黒いタンクトップに黒いレザージャケットを着たアル・パチーノのビジュアルには、何だかドキドキしたものでした。そしてまだ今よりは遥に純真だった少年心にも、「この映画はアカンやつだ!」と何となく思えたのでした。

 しかしアカンものにこそ惹かれてしまうのが思春期の少年というもの。この映画を観に行こう!とまではいきませんでしたが、それ以来ずっとこの作品は僕の心の片隅に引っかかっていたのでした。

 さらにこの作品を印象づけたのが、当時NHK-FMで毎週土曜の夜に放送されていた「夜のスクリーン・ミュージック」という番組。毎回特集を組んでいろいろな映画音楽を流していました。僕はこの番組を毎週欠かさず聴き、さらに放送された音楽も全てカセットテープに録音し、何度も聴き返していました。この番組からも、映画の知識をかなり得ることができました。

 その番組の中で、ある日「クルージング」のサントラ盤が紹介され、その中の1曲 Willy DeVille の “Heat of the Moment“というパンクっぽい曲が流れました。この曲がなぜか僕の頭の中にインプットされ、ずっと頭の中に残っていました。

 

 

 今回、「クルージング」を観ていて、その “Heat of the Moment“が流れるシーンが出てきて、実に44年目にして、「ああ、この場面なのか〜!」と少年の日の記憶との邂逅に感動してしまいました。

 

 つらつらと思い出話を書いてきましたが、さて、映画はというと、これが何とも不思議な雰囲気の作品。

 公開当時はゲイを蔑視している、と批判されることが多かったそうです。確かに会員制SMクラブにたむろする、レザージャケットにムキムキの身体を包んだ屈強な男たちが、抱き合ったり、キスしたりしている場面は、今見てもかなり強烈です。

 しかし僕自身は決して嫌悪感はありませんでしたし、当時のニューヨークのアンダーグラウンド・カルチャーの一端を垣間見ていると思えば、むしろ興味深く感じました。

 それにこの物語は、あくまでも連続殺人鬼を追うサスペンスであり、その背景にハードゲイの世界があります。そしてアル・パチーノ演じる警官が今まで知らなかったハードゲイの世界に踏み込むことによって、自分の内部で起きる精神の変化に苦悩する姿が並行して描かれます。

 物語は終盤で一定の解決を得ますが、最後の最後で観客はものすごく戸惑わされます。それはネタバレになるので、気になる人は映画を観てください。

 「エクソシスト」の世界的大成功の後、「恐怖の報酬」「ブリンクス」が興行的に失敗し、それに続いて製作されたこの「クルージング」。傑作とは言い難いですが、そんなフリードキン監督の苦悩も反映されているかのように思え、僕は興味深く観ることができました。好きなタイプの作品ではあります。

 ちなみに2018年に日本公開された「恐怖の報酬【完全オリジナル版】」は傑作です!