眞栄田郷敦のピュアな存在感にゾクゾクする「彼方の閃光」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

眞栄田郷敦のピュアな存在感にゾクゾクする「彼方の閃光」

『彼方の閃光』

 

 今年の東京国際映画祭で、最も気になっていた作品。

 監督の半野喜弘さんは、2016年の東京国際映画祭でデビュー作の「雨にゆれる女」を観て以来、気になっていた映画監督。

 その半野監督の新作であり、舞台が長崎沖縄。そして出演者が尚玄さんと加藤雅也さんと、僕の気になる要素がいっぱいでした。

 しかしこの作品の最大の収穫は、主演の眞栄田郷敦さんです。

 彼のデビュー作「小さな恋のうた」も公開時に観ていて、印象に残る俳優でしたが、まさかここまでの進化を遂げていたとは!ちなみに「小さな恋のうた」も沖縄が舞台の作品。彼と沖縄の相性は良いようです。

 眞栄田さん演じる光(ヒカリ)は、幼くして視力を失います。映画の冒頭数分は、暗闇の画面の中で会話が交わされる意欲的なオープニング。

 やがて手術により光は視力を取り戻します。しかし色彩を感じることができず、彼の目の前に広がるのは白黒の世界です。

 美大に進学した光は、写真家・東松照明(1930-2012)の作品と出会い、強く導かれるように長崎へ向かいます。

 そこで出会った自称革命家の男・友部(池内博之)に、原爆や戦争を題材としたドキュメンタリー映画の製作に誘われます。

 やがて、映画製作の旅は沖縄での戦争の痕跡を辿ることになります。

 旅の中で、友部の恋人の詠美(Awich)や、沖縄を愛し家族を愛する男・糸洲(尚玄)と出会います。

 最初、光は友部の反戦や革命の主張に引かれますが、徐々に友部の言葉に矛盾を感じ始め、純粋であるが故に理想と現実の狭間で苦悩し始めます。

 長崎、沖縄の旅、そして友部や詠美との関係の中で、光の生き方はどう変わっていくのか?

 

 2時間49分の壮大なロードムービー。しかし眞栄田さんを始めとした魅力的な出演者たちと、シャープで白黒な映像に、スクリーンに釘付けにされます。

 長崎、沖縄での戦争の記憶をたどりながらも、戦争の被害者に寄り添うことの難しさ、未だ戦火の消えない世界の虚しさを突きつけられます。

 そんな世の中であっても理想を信じ、まっすぐに世界を見つめる光の眼差しが、一縷の希望となって、この作品を貫きます。

 光を演じる眞栄田さんの力強い眼差しが、この作品の最大の魅力です。

 上映後のトークセッションで、半野監督が登壇し、眞栄田さんの役者としてはもちろん、人間的な魅力について熱く語っていました。

 非常に難しい役柄であり、思いがけない大胆なシーンもあります。ベテラン俳優たちを相手に、ピュアで熱い演技を見せてくれます。

 光の目を通し、暗闇から白黒、そして最後は鮮やかな色彩へと変化していく映像は、まさに映画の歴史でもあり、また世界が浄化されていくようにも感じました。

 戦争、そして世界との関わり方についての作品で、決して敷居が低いとは言えませんが、久々に重厚で濃密な映画体験をしました。

 まだ配給会社が決まっていないそうですが、ぜひ一般公開してほしい作品です。