「クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

「クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち」

『クリーチャー・デザイナーズ  

ハリウッド特殊効果の魔術師たち』

 

 1980〜1990年代の映画の特殊効果に夢中になっていた僕にとっては、たまらない内容でした!

 リック・ベイカー、ロブ・ボッティン、フィル・ティペット、デニス・ミューレン。いずれもその名前を聞けば、「あ!あの作品の特殊効果をやった人だ!」とすぐに頭に思い浮かびます。

 あの時代、映画の特殊効果は飛躍的な進化を遂げていて、特殊効果作品の名作がたくさん生まれていました。

 『遊星からの物体X』『ハウリング』『狼男アメリカン』『グレムリン』『アビス』『ターミネーター2』『ジュラシック・パーク』『スターシップ・トゥルーパーズ』etc...。

 ちょうどCGが映画の特殊効果の主流に切り替わる過渡期でもありました。

 正直、現代のCG主体の特殊効果のほうが、1980〜1990年代のアナログの特殊効果よりも遥かに高いクオリティであることは間違いありません。場面によっては、CGを使っていることさえわからないものもあります。

 しかし、1980〜1990年代の特殊効果には、それを創り上げた人の個性がありました。「狼男アメリカン」や「ヴィデオドローム」は、リック・ベイカーの仕事以外の何物でもないですし、「ハウリング」や「遊星からの物体X」はロブ・ボッティンだからこその衝撃でした。

 フィル・ティペットが「スターウォーズ/帝国の逆襲」で見せたAT-ATの動きは、ストップモーション・アニメーションの到達点でした。

 これらは映画の特殊効果であると同時に、至高の職人芸でもありました。

 アナログならではの限界はあるものの、現代のCGの特殊効果と比べると、アナログならではの生々しさや、薄き気味の悪さがあり、おそらくそれはCGでは表現できないものなのではないかと思います。

 しかしそんな職人芸も、CG隆盛の中で徐々に追いやられていきます。

 先に挙げた特殊効果マンの中には、今も現役で活躍している人はいますが、この世界から去っていった人もいます。

 現代のCGによる特殊効果は、そのクオリティはとても高品質ですが、それを創り上げている人たちの顔が見えないように感じます。

 映画のエンドクレジットを見ていると、VFX(視覚効果)のスタッフのところでは、膨大な数のCGクリエイターの名前が並びます。大人数での分業体制によって、緻密で高品質な視覚効果が生まれています。それは一方で、かつての職人芸のような味のある特殊効果が生まれにくい環境を作っているようにも感じます。

 これはどちらが良い、悪いということではありません。

 映画の特殊効果は、よりリアリティのあるものを目指して進歩してきたのですから、今のCG全盛の流れは映画産業的には正しい方向です。

 しかし1980〜1990年代の特殊効果に魅了され、映画の魅力にハマっていった僕のような人間にとっては、少し寂しいのも事実です。

 でも映画の中に登場する特殊効果マンたちは、CG全盛の時代を嘆いたりはしていませんでした。必要ならどんどん取り入れていく、と宣言し、今も新たな技術に向けて挑戦し続けています。

 彼らのスピリッツは、間違いなく今も生き続け、受け継がれています。