カーペンターの海洋怪異譚の傑作!「ザ・フォッグ」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

カーペンターの海洋怪異譚の傑作!「ザ・フォッグ」

ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022

 

 

 「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ2022」3本目は「ザ・フォッグ」。これにて全作品鑑賞。コンプリート記念のポストカードセットもいただきました。

 1980年製作の作品。この頃はスプラッター・ホラー映画が量産されていました。残虐な殺人シーンだけが売りのC級作品も目立ちましたが、この「ザ・フォッグ」はカーペンター監督だけに一味違います。

 アメリカ西海岸にある小さな港町アントニオ・ベイ。誕生100年祭を迎える日に、怪異が町を襲います。この町は100年前、金を強奪するために町民たちが船乗りを事故死させ、それにより発展した歴史がありました。

 その時殺された船乗りたちが100年目のこの日、復讐のために甦り、深い霧と共に町の住民を襲い始めます。

 金品を強奪するためにわざと船を危険な暗礁などに誘導し、座礁や沈没させ、船乗りたちの命を奪うという話は、日本でも吉村昭の小説などにもあります。

 古今東西にある古典的な海洋怪異譚がベースになっています。そのためか、全編にわたってある種の格調が感じられます。

 深い霧が町を覆っていく描写も、シネマスコープの画面を活かし、不気味さの中にも美しさがあります。

 スプラッター・ホラーの範疇に入れられることの多い本作ですが、実はそういったシーンは意外と少なく、その描写も控えめです。

 むしろ霧の中から得体の知れないものがやってくる、という心理的な演出に力を入れていて、そこが独特の静かな不気味さを生んでいます。

 出演者の中では町のFM曲のDJを演じるエイドリアン・バーボーが良いです!彼女は「ニューヨーク1997」でワイルドでセクシーな女囚人を演じ、マグナム銃をぶっ放していますが、この作品では、しっとりとした声が印象的なDJを演じています。このDJがすごくいい雰囲気で、「本職なのか?」と思ってしまいます。

 町の女性名士役でジャネット・リーが出演しています。「サイコ」で強烈な印象を残した彼女を起用するあたりは、カーペンターなりの過去のスリラー映画へのリスペクトなのでしょう。

 クライマックスで登場する船乗りの亡霊のリーダーを、この作品の特殊メイクを担当したロブ・ボッティンが自ら演じています。彼はその後、カーペンターの「遊星からの物体X」で映画史に残るエイリアンの変形特殊効果を担当します。

 今作でもカーペンターが自ら楽曲を作曲しています。静かな港町に、カーペンターのシンセサイザーによるメロディがしっくりとなじみ、良い雰囲気を醸し出しています。

 過激なスプラッターを期待していくと肩透かしを食らうかもしれませんが、ゴーストストーリーとしてしっかり作られており、今観ても十分に楽しめます。

 この特集上映は、当初1月7日から3週間の予定でしたが、お客さんの入りも良いようで、延長上映になっています。まだこれらのカーペンター作品を体験したことのない人は、1980年代のSF・ホラーのパワーを体験してみてください。