三島由紀夫を描いた幻の映画を観た! | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

三島由紀夫を描いた幻の映画を観た!

 

『MISHIMA: a life in four chapters』

 

 昨年の11月25日は三島由紀夫の没後50年だった。三島に関連する本や番組もたくさん作られた。

 三島に関連する映画も多い。昨年公開された『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』は、とてもエキサイティングなドキュメンタリーだった。

 この他にも三島由紀夫を題材にした作品では『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』も見応えがある。

 三島作品の映画化も多い。何度も映画化されている『潮騒』を始め、『金閣寺』『午後の曳航』『春の雪』『美しい星』など。

 三島自身が役者として主演している『からっ風野郎』や監督・出演をこなした「憂国」もある。

 数多くの三島関連作品がある中で、製作から35年が経ちながら未だに日本で正式に公開されていない作品がある。

 それが『MISHIMA: a life in four chapters』だ。

 

 1985年の製作で、当時僕は大学受験を控えた高校生。すでに映画大好き少年だったので、その頃読んでいた映画雑誌でこの作品が作られていたことは知っていた。何せ製作総指揮がフランシス・F・コッポラとジョージ・ルーカス!そして監督が「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」の脚本を手がけたポール・シュレイダー!

 出演者もすごい!主役の三島由紀夫を演じた緒形拳を始め、坂東八十助、佐藤浩市、沢田研二、永島敏行、三上博史 、笠智衆、烏丸せつこ、萬田久子、倉田保昭、横尾忠則、李麗仙 、平田満、池部良、誠直也、勝野洋、etc。今ですらここまでのキャストを揃える映画はそうそうない。

 さらに音楽は現代音楽の巨匠フィリップ・グラス!

 そして美術が石岡瑛子!

 今回この映画を紹介しようと思ったのは、先日、東京都美術館で開催中の「石岡瑛子展」を観に行き、そこで展示されていた「MISHIMA」の美術資料と復元された金閣寺のセットに圧倒されたからだ。会場ではこれらのセットが登場するシーンがプロジェクターで上映されていた。わずか数分間の映像だったが、そのインパクトは強烈だった。

 1985年度の第38回カンヌ国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞している。

 

 当初この映画は1985年の第1回東京国際映画祭で特別上映され、その後一般公開される予定だった。ところが作品の中で同性愛者を想起させる三島の描き方に遺族である瑤子夫人が難色を示し、さらに右翼団体の一部が抗議し、実際に出演者やスタッフに脅迫状が送られているという噂が流れた。そのため映画祭第1回目からの混乱を恐れ、映画祭側が公開を自粛してしまった。日本側プロデューサーの山本又一朗が「国際映画祭は右翼に屈服してはいけない」と反論したが、結局映画祭で上映されることはなく、さらに一般公開も中止になった。

 その後もこの映画は日本で正式に公開されたことはない。DVD等のソフトも発売されておらず、ネットでの配信もされていない。

 それで何とかこの映画を観る方法はないだろうか?と調べてみたところ、アメリカのCriterion Collectionから2018年にブルーレイが発売されていることがわかった。Criterion Collectionとは、アメリカの映像ソフトのレーベルで、マニアックな仕様で高品質のDVDやブルーレイを発売している。

 この輸入版がアマゾンで購入可能だったので、早速取り寄せてみた。

 

 

 

 

 ブルーレイの他に58ページのブックレットも付いていた。石岡瑛子さんの美術写真もたくさん収録されていて、読み応えもある。もちろんすべて英語です。

 輸入版なので日本語字幕は一切ついていませんが、そもそも出演者がみんな日本人で、日本が舞台の映画なので、セリフは基本的に日本語です。唯一ナレーションのみが英語(なんと僕の大好きなロイ・シャイダー!)ですが、これも音声を切り替えると、当初日本公開用に用意されていた緒方拳による日本語のナレーションが選べるので、視聴にはまったく問題ありません。

 さて、肝心の映画の内容はというと、これが実に面白かった!傑作だと思います。

 映画はタイトルにもあるように4つの章に分かれている。

 すなわち「美(beauty)」「芸術(art)」「行動(action)」「文武両道(harmony of pen and sword)」の4章だ。

 1970年11月25日の自決の日を縦軸に、三島が楯の会のメンバーと自衛隊市ヶ谷駐屯地に乗り込み自決するまでの様子を挟み込みながら、三島の作品「金閣寺」「鏡子の家」「奔馬」をモチーフとした物語が、石岡瑛子の斬新なセットの中で繰り広げられる。

 三島を演じた緒方拳以外の出演者の出番は決して多くはないものの、それぞれが印象的な役柄を演じている。

 僕は三島の熱心な読者でもないし、未読の作品もたくさんあるのだが、それでも三島が作品で表現しようとしていた世界観が視覚化されていたように感じた。

 また映画の中で、東大全共闘の学生との討論シーンが出てくるのだが、これが去年見た実際のドキュメンタリーの映像の雰囲気を実によく再現していた。

 そもそもが1970年の話なので、今見てもそんなに古さは感じない。むしろ石岡瑛子の美術などは、今の映画の美術よりも遥にとんがっているように感じる。

 これだけの傑作が未だに日本で日の目を見られないのは、日本映画界にとって損失であり、恥ずべきことだと思う。

 ぜひ大きなスクリーンで観てみたい。