夢と狂気は紙一重「フィツカラルド」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

夢と狂気は紙一重「フィツカラルド」

『フィツカラルド』

 

 アップリンククラウドの「ヴェルナー・ヘルツォーク監督特集」で鑑賞。

 この特集配信は、購入して大正解。

 ヘルツォーク監督の作品は、以前から観たかったものが多かったのだが、なかなか観る機会に恵まれなかった。中でも「フィツカラルド」はいちばん観たかった作品。

 数年前に劇場での特集上映があったのだが、これも行けなかった。

 今回、ようやく観ることができたのだが、これが予想以上の衝撃作だった。

 舞台は19世紀末のブラジル。ジャングルの奥地にオペラハウスを建てるという夢を持ったフィツカラルド。その資金集めのために、ジャングルを開拓しゴム園を開こうとする。愛人で娼家の女将をしているモリーに土地の購入資金と川を遡るための船の代金を出してもらい、ジャングルの奥地へ向かう。

 しかし行手は急流で阻まれていた。そこでフィツカラルドは、途中で船ごと山を越え、隣の川に船を移すことを計画する。原住民のインディオの協力により、山越えは成功。しかしその後、予想だにしない出来事が起こる・・・。

 圧巻なのは、船の山越えのシーン。今ならCGで難なく映像化してしまうだろうが、この映画が作られたのは1982年。CGは存在したものの、映画の制作に使えるものではなかった。

 そこでどうしたかというと、300トンある船を実際に山越えさせたのだ。上のポスターの写真は、ミニチュアによる合成ではなく、本当に巨大な船が山を登っているのである。

 船を昇らせるためのルートは、ジャングルを切り開いて作られた。実際に巨木を切り倒し、草を切り払うシーンが出てくる。今だったら環境保護団体からクレームが出て、まず撮影はできないだろう。

 このシーンの撮影だけで1年かかったそうだ。ここまでやると、もはや狂気のレベルだ。それでもヘルツォーク監督は、何としてもこのシーンを撮りたかったのだろう。あくまでも実物での撮影にこだわり抜いたそうだ。

 主人公フィツカラルドのジャングの奥地にオペラハウスを建設するという夢と同様に、ヘルツォーク監督にとっても、この映画を作り上げることが夢だったのだろう。

 そんな監督の執念と狂気が、主人公の生き様と重なり合い、強烈に伝わってくる。

 今回はテレビ画面での鑑賞だったが、機会があればこれは絶対に劇場の大スクリーンで観たい作品。