「ファースト・マン」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

「ファースト・マン」

『ファースト・マン』

 

 実際の宇宙開発を描いた映画には傑作が多い。

 僕にとってオールタイムベストのひとつである「ライト・スタッフ」を始め、「アポロ13」、「遠い空の向こうに」、「ドリーム」などなど。

 そこにまた新たな傑作が加わった。

 人類として初めて月に降り立ったニール・アームストロングを主人公に、アポロ計画の始まりから1969年の月面への着陸成功までを描く。

 実際のアポロ計画の様子が詳細に再現され、見応えがある。宇宙飛行士たちの訓練の様子や、ロケットのコックピットの内部など。中でも飛行中のロケット内での宇宙飛行士たちの姿は、リアリティのある音響効果で、見る側にもコックピット内の閉塞感を否応なしに感じさせる。今回はIMAXで鑑賞したので、その音響効果はさらに凄まじかった。映画で見ているだけでも、あの轟音の中で飛行していくのはものすごい不安とストレスだったに違いない!と思ってしまう。やはり宇宙飛行士の精神力は尋常ではない。
 月着陸シーンもまるで実際の映像を見ているような出来栄え。ちなみに先日発表されたアカデミー賞では、視覚効果賞を受賞している。
 一方、この映画は映像だけが見どころではない。主役のニール・アームストロングとその家族の物語こそが、この作品の核心となっている。幼くして失った娘への思いや、月面着陸ミッションに向かう前夜、子供達に失敗した場合のことを自ら言い出せない姿など、人間的な弱さを見せる一面もあり、共感を覚える。

 またアポロ計画を支えるディーク・スレイトンや、テスト中に事故で死亡するガス・グリソムなど、「ライト・スタッフ」大好きな僕からすると馴染みのある面々が登場するのも興味深い。「ライト・スタッフ」はアメリカ初の有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画を描いている。この映画を観てから「ファースト・マン」を見ると、当時のアメリカの宇宙計画が概観でき面白い。
 月面着陸ミッションを成功させ、無事地球に帰還したニール・アームストロング。華々しいエンディングを想像していたが、意外にも静かな終わり方。でもこのラストシーンにこそ、一人の人間としてのアームストロングの姿が現れていると感じた。