政治と報道の狭間にある闇「ニュースの真相」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

政治と報道の狭間にある闇「ニュースの真相」




 今年のアカデミー作品賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」は、調査報道を通じてジャーナリズムの本質を描いた傑作だった。
 「ニュースの真相」もジャーナリズムを描いた作品だが、現代における報道の難しさと恐ろしさを描いている。
 物語は事実に基づいている。2004年、アメリカの3大ネットワークのひとつCBSの看板番組、「60ミニッツII」は、2期目の大統領を目指して選挙活動を行っていたジョージ・W・ブッシュ候補が、ベトナム戦争中、大物政治家だった父親の力を使って兵役を怠ったという疑惑の決定的証拠を入手し報道。全米に一大センセーションを引き起こした。
 しかし番組のスタッフたちがそんな大スクープの余韻にひたるのも束の間、あるブロガーの指摘により証拠となった文書の偽造疑惑が持ち上がる。その文書は現代のPCソフト“ワード”で作られたものであり、ベトナム戦争当時には存在しなかったフォントが使用されているというのだ。
 一転して非難の集中砲火を浴びる番組スタッフたち。CBSは内部調査委員会を設置し、証拠とされた文書は偽物だと断定。番組の花形アンカーだったダン・ラザーは番組を降板し、プロデューサーを始めとする主要スタッフたちも解雇される。
 この事件については、僕も記憶がある。ダン・ラザーと言えばアメリカを代表するアンカーマンで、このようなスキャンダルで人気番組を降板することは当時の日本でも大きく報道されていた。
 「60ミニッツII」のスタッフたちの取材は杜撰だったのか?映画の中では、文書をリークした人物への取材から始まり、当時のブッシュの上官たちへのインタビューや、公式文書の掘り起こしの過程などが描かれている。元々、ジャーナリズムに対しては強い誇りと自信を持っている番組スタッフたち。彼らの取材は、証拠となった文書の偽造を見抜けなかった点をのぞけば、ほぼ完璧だった。
 この事件の恐ろしいところは、ブッシュの兵役詐称疑惑が、文書のねつ造という問題にすり替えられ、問題の本質がうやむやにされてしまったことだ。
 確かに文書はねつ造されたものだったのだろう。それを見抜けなかった番組スタッフたちの詰めの甘さは弾劾されて然るべきだ。
 しかしその文書に記されていた内容は、ベトナム戦争当時のブッシュの経歴や、彼に関わった軍関係者の行動など、当時の詳細な事実を知り得た人物にしか書けないものだった。
 だとするならば、この文書は誰が何のために作り上げ、「60ミニッツII」のスタッフの手に渡ったのか?もしかすると、人気番組の人気アンカーマンを陥れるために仕組まれたのではないか?今となっては真相は闇の中だ。
 共和党の候補者だったブッシュは、民主党の候補者だったケリーに追い上げられていたが、この事件をきっかけに、再選を果たす。
 番組に対して、何か見えない巨大な力が働いていたのではないか、という疑問が残る。

 日本でも「報道ステーション」や「ニュース23」といった番組で、人気キャスターの降板が相次いでいる。テレビ局側はキャスター側の事情だと言うが、政治的な圧力があったのではないか、ということもさかんにささやかれている。
 政治と報道との間にある深い闇の深淵に光を当てようとした力作。今の日本でこの映画が公開されたことには大きな意味があると思う。
 ダン・ラザーを演じたロバート・レッドフォードの貫禄の演技が光る。彼が番組を去る時の最後のコメントが胸を打つ。
 また番組の敏腕プロデューサーを演じたケイト・ブランシェットもすばらしい。この二人の演技を見るだけでも価値がある。
 監督は、これがデビュー作であるジェームズ・ヴァンダービルト。脚本も兼ねており、過去の脚本作品としては「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」にも参加しているとのこと。とてもあんなヘボ映画を手がけた人物の脚本とは思えない見事な出来。