科学と倫理の問題に鋭く切り込む〜「コペンハーゲン」 | 帰ってきた神保町日記      ~Return to the Kingdom of Books~

科学と倫理の問題に鋭く切り込む〜「コペンハーゲン」

『コペンハーゲン』
原作:マイケル・フレイン
演出:小川絵梨子
出演:段田安則/浅野和之/宮沢りえ






 先週の土曜日に三軒茶屋のシアタートラムで「コペンハーゲン」を観てきた。
 原爆の開発秘話に関するスリリングな会話劇。
 実在の2人の物理学者でノーベル賞受賞者、ドイツ人のヴェルナー・カール・ハイゼンベルクと、ユダヤ系のニールス・ヘンリク・ダヴィッド・ボーア。そしてボーアの妻のマルグレーテ。この3人のみが登場人物。
 ハイゼルベルグはボーアを師と仰いでいた。
 1941年、ドイツ占領下のデンマークのコペンハーゲンへ、ハイゼンベルクはボーアを訪ねる。当時、敵対する立場にあった二人は、会って何を話したのか?その詳細は記録に残っていないが、この日を契機に原爆開発の流れが大きく変わったと言われている。
 原作者のフレインは大胆な考察のもと、そこで交わされた会話を構築し、科学と倫理の問題に鋭く切り込んでいく。
 舞台に立つ3人の立ち位置も面白い。会話の当事者かと思えば、ある瞬間から全体を俯瞰するナレーターにもなり、それぞれの役割を切り替えながら、3人の人間性を浮き上がらせていく。
 物理学に関する話なので、難解な物理学用語もたくさん出てきて、会話についていくのに少し手こずる。しかしその中心にあるのは物理学というゆるぎない法則によって成り立っているものを操るのが、人間という不確実なものだということだ。だからこそは科学は人類に恩恵をもたらすと共に、制御の効かない恐怖をもたらすこともある。
 第二次世界大戦を舞台にしながら、そこで語られるテーマは、今まさに人間が直面している科学と倫理の問題だ。だからこそ、この劇が上演されることに大きな意味がある。
 難解な用語の散りばめられた膨大な台詞を語る3人の役者の力量にも圧倒される。いずれもベテランの役者だが、特に宮沢りえの舞台女優としての成長は、著しいものがある。
 シアタートラムは客席数200名の小劇場なので、最後列に座っても役者の表情がよく分かる。
 こういう環境で、こうした上質な演劇が観られるの、実に贅沢な体験。