日本呼吸器学会の「特発性間質肺炎の手引き」には、間質性肺炎のCT画像所見のうち、線維化と関係のある所見として
① コンソリデーション(浸潤影)とすりガラス影
② 小葉内網状陰影
③ 蜂窩肺
④ 牽引性気管支拡張
があげられている[1]。ただし、①と②は、実質性病変であっても間質性病変であっても起こるので特異性はない、とされている。③は肺胞の畳み込みと細気道の拡張による嚢胞形成、④は周囲肺組織の線維化による容積減少によって気管支壁が牽引されて拡張する、とされている。「肺胞の畳み込み」とは、具体的にどのような現象を指すのか「手引き」の中に説明はないが、肺胞壁が折り畳まれている(folding)状態を指すものと思われる。模式的に表すと、図1のようになる。隣り合う肺胞を境する肺胞壁が倒れこみ、折り畳まれている状態である。本来の肺胞腔が消失した状態、つまり、肺胞虚脱である。肺胞虚脱が高度になると肺胞管全体が虚脱する。「蜂窩肺」も「牽引性気管支拡張」も肺胞虚脱によって容積が減少したためにおこる変化、ということになる。そうであれば、線維化に特徴的なCT所見として挙げられている4つの所見は、いずれも線維化と関係なく生じうることになる。逆に、4つの所見はすべて肺胞虚脱で説明できる。
図1.肺胞の「畳み込み」
「手引き」では線維化によって肺の容積減少が起こるとされている。しかし、線維組織の増生自体では肺の容積減少は起こらない。膠原繊維は弾性線維より弾性率が高い(コンプライアンスは低い)が、最大吸気によって最大限の圧を加えた場合は、肺胞構造が保たれていれば同程度に伸展する。したがって肺活量低下の主たる原因は肺胞虚脱による含気量の減少である。
仮に、肺胞構造はそのままで肺胞壁が線維組織の増生によって厚さが2倍になったとしよう(図2)。この場合、組織の容積もほぼ2倍になるが、全体の容積は不変で、組織の増加分だけ含気が減少する。
図2.線維増生で肺胞壁の厚さが2倍になった場合
元の状態の組織の含有率が10%(CT値 -900 HU に相当)だったとすると、組織含有率は20%(CT値 -800 HUに相当)になり、含気量(全肺気量, TLCに相当)は89%(= 80/90)になる。他方、図1のように肺胞が虚脱すると、肺胞腔の容積(約40%)が失われるので 全体の容積は60%になる。組織自体の容積は不変であるが、全体の容積が減少した分、組織の含有率は17% (=10/60)に増加し、含気量は 56 % (50/90)になる。組織の含有率17%はCT値-830 HU に相当する。滲出性反応を伴えば、もう少し高値になる。
病変部のCT値、組織量(正常時を1とする)、含気量、組織も含めた全体の容積を下表にまとめた。肺胞虚脱の場合は組織量自体は変化しないが、全体の容積が減少しているので組織の容積の割合(組織の含有率)が増加し、CT値が上昇する。
|
全体の容積(正常時を1) |
組織量 (正常 時を1) |
含気量 (正常 時を1) |
全体の容積に対する組織量 (%) |
CT値 (HU) |
正常時 |
1 |
1 |
1 |
10 |
-900 |
肺胞虚脱(図1) |
0.6 |
1 |
0.56 |
17 |
-830 |
線維増生(図2) |
1 |
2 |
0.89 |
20 |
-800 |
3DCTで含気量と組織量を定量的に計測したHoggのグループの論文[2]によると、IPFでは含気量も肺全体の容積も低下しているが、組織の容積(率ではなく絶対値)は健常者と同じだったとのことである。彼らの計測結果は、上の表の肺胞虚脱の場合と合致している。
3DCTでは肺全体の容積を計測することができるが、病変部の容積がどれだけ変化したかは、発症前のCT画像が得られなければ推定することは困難である。しかし、肺胞虚脱の場合は病変部と健常部の境界が凹んだ曲面になるので、2次元画像でも容易に推定できる。肺水腫や肺胞性肺炎でh肺胞腔が水分で満たされる場合は境界が凸の曲面になるので、鑑別可能である。
以上より、HRCTで観察されるIPFの「線維化」は、肺胞虚脱によって生じる2次的な構造変化を指しており、線維組織の増生によって生じる変化ではない、と結論される。
1.日本呼吸器学会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き第3版.南光堂、東京、2016.