「ぼくは君たちを憎まないことにした」テロで妻を失った夫。幼い息子と二人で選択した生き方とは | 『Pickup Cinema』

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(C)2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS / Erfttal Film und Fernsehproduktion

2022年製作/102分/ドイツ・フランス・ベルギー合作 監督:キリアン・リートホーフ 出演:ピエール・ドゥラドンシャン、カメリア・ジョルダーナ、ゾーエ・イオリオほか

原題:Vous n'aurez pas ma haine 配給:アルバトロス・フィルム 劇場公開日:2023年11月10日 ★マスコミ試写で10月14日に鑑賞

 

2015 年 11 月 13 日。パリに暮らす作家のアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)は、ヘアメイクアーティストの妻(カメリア・ジョルダーナ)、1 歳半の息子(ゾーエ・イオリオ)と慌ただしい朝を迎えていた。

妻の外出後、息子を保育園に送り届けたアントワーヌは、自宅で原稿を書こうとするが、スランプ状態で1行も書けない。一方、仕事から戻った妻は楽しそうに友達とバタクラン劇場のライブに出かけていく。

数時間後、息子を寝かしつけ、読書をしていたアントワーヌに「大丈夫か?」というメッセージが次々と送られてきた。その夜、妻が行った劇場やスタジアム周辺などで同時多発テロが発生したのだった。慌てて妻に電話するが通じない。「彼女はテロに巻き込まれ、負傷したのではないか」と考えたアントワーヌは、病院を訪ねまわるが、妻はどこにもいなかった。

夜が明け、息子が起きてくる。こんな状況でも息子のために、朝食を準備しなくてはならない。テレビでは“イスラム国”の犯行に対し大統領が声明を出し、フランス中が悲しみとショックに打ちひしがれ、世界中に恐怖と怒りが渦巻いていた。しかし、何も知らない息子は普段通り楽しそうに過ごしている。

そして、訃報が届く。妻はバタクラン劇場で命を落としていた。遺体安置所で数日ぶりに会った妻は美しく、今にも起き上がりそうだった。苦しみ、悲しみ、不安、そして体を押しつぶしてしまいそうな深い喪失感。

その夜、アントワーヌはテロリストに向けて手紙を書いた。それは憎しみの連鎖に巻き込まれないよう自らを律し、息子との新しい生活を受け入れる決意表明だった。そして、瞬く間にその手紙は世界に拡散されていった…。

これは、2015年のパリ同時多発テロ事件で妻を失ったアントワーヌ・レリスが、事件発生から2週間の出来事をつづった世界的ベストセラーの映画化。

9.11以降、世界は変わり、各地でテロが頻発し戦争や紛争が勃発している。憎しみの連鎖が止まらず、誰もがいつどこで、悲惨な事件に巻き込まれるかもしれない状況だ。アントワーヌの悲劇は決して他人事ではない。このまま私たちはどうなってしまうのか…。

この混乱を収めるために、何ができるのか。愛する人を失くし残された者はどう生きるべきなのか。アントワーヌの言葉が胸を打つ。