「崖上のスパイ」 これはチャン・イーモウの魔法。全てのシーンがなんてスタイリッシュで美しいの | 『Pickup Cinema』

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2021年製作/120分/PG12/中国 原題:懸崖之上 Cliff Walkers 監督:チャン・イーモウ 出演:チャン・イー、ユー・ホーフェイ、チン・ハイルー、チュー・ヤーウェン、リウ・ハオツンほか

配給:アルバトロス・フィルム 劇場公開日 2023年2月10日

夏・冬の北京オリンピックの総指揮を務めたことでも知られる、中国の巨匠チャン・イーモウ監督が初めて手掛けた極上のスパイ・サスペンス。

舞台は1930年代の満州国。

ソ連で特殊訓練を受けた男女のスパイ4人が、極秘作戦“ウートラ計画”を実行するため極寒のハルビンを目指す。4人はそれぞれ夫婦と恋人同士。ミッションを遂行するためペアを変えて列車でハルビンへと向かう。

目的は、日本軍の施設から脱走した生き証人を国外に脱出させ、その蛮行を世界に知らしめること。

しかし、仲間の裏切りにより、彼らの動向は特務警察に察知されていた。

雪が降り積もるハルビンの街で、執拗な追跡が行われ、リーダーの張憲臣(チャン・シエンチェン)は特務に捕らえられ日本軍による激しい拷問を受ける。残された王郁(ワン・ユー)、楚良(チュー・リャン)、小蘭(シャオラン)の3人と、彼らの協力者となった周乙(ジョウ・イー)は、八方塞がりのなか、命がけのミッションを完遂しようと奮闘するが…。

任務のために自宅を離れたスパイ夫婦の幼い子ども二人は浮浪児となり、ホテルの前で物乞いをしているという設定には胸がつまる。そして戦時中とはいえ酷い拷問シーンには同じ日本人として観るのが辛く、目をそむけたくなった。戦後80年近く経過してもこれらの真実は映画の中に生き続けてしまうのか…

ウートラとは夜明け。無事にミッションを果たし、彼らは、そしてこの国は夜明けを迎えることができるのか。スパイ映画でありながら反戦の映画でもあると感じた。

ヒッチコック作品を思わせる列車内の攻防、ハルビン市街地や迷路のような路地での激烈なチェイス、銃撃戦などスパイ映画ならではの息づまるシーンが続くが、そこはチャン・イーモウ監督。白い雪と黒の装束の対比や街角のレトロな映画館、隠れ家の洋館などの細部にいたるまでセンスの良さが光る。

スパイも特務も似たような服装なので、どっちがどっちか判別が難しかったり、騙し合いが複雑すぎて謎?の部分も多く、もう一度観ないと理解できない、と思わせるような高尚な作品。しかし、芸術的な美しさにひととき酔いしれるだけでも観る価値あり。

もうひとつ、忘れてならないのは小蘭の存在。往年のチャン・ツィイーを彷彿とさせるリウ・ハオツン。あどけなさの残る美少女が辣腕を振るうスパイ役を見事にこなしている。彼女の今後の活躍には大いに期待したい。