「選ばなかったみち」 認知症の父が旅する過去の幻想世界 介護する一人娘と過ごした24時間とは | 『Pickup Cinema』

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(C)BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

2020年製作/86分/G/イギリス・アメリカ合作 原題:The Roads Not Taken

監督・脚本:サリー・ポッター 出演:ハビエル・バルデム、エル・ファニング、サルマ・ハエックほか 配給:ショウゲート 劇場公開日 2022年2月25日

 

わが国では6人に一人が患うと言われている認知症。私の周囲にも認知症の親を介護しているという人が増えてきているが、理解できない言動に戸惑い、悩み、苦しんでいるケースも多い。

「なぜ?」と思われるような言動は一体、何に由来しているのか。この作品を鑑賞することで、その謎が少し解けたような気持になった。

舞台は現代のニューヨーク。鉄道沿いの安アパートに一人で住むメキシコ人移民レオ(ハビエル・バルデム)は作家だったが、今は認知症を患いヘルパーの介助なしでは生活できない状態だ。

ある朝、一人娘のモリー(エル・ファニング)が訪ねてくるが、父は娘を認識できず、故郷メキシコで過ごした日々に思いを馳せている。

モリーは父を歯科医と眼科医に連れて行くため外に出るが、幻想の中に生きる父は想定外の行動を起こしては周囲を戸惑わせ、挙句の果てにケガをしてしまう。

娘と一緒にいても、初恋の女性との暮らしや作家生活に行き詰って出かけたギリシャ旅行の幻想を追い求める父。そんな父の脳内を理解できないまま、かいがいしく世話をする娘。

隣に居ながら全く別の景色を見ている父と娘。

父は人生の分岐点で自らが選んだ道が正しかったのか否かを考えるあまり、胸の奥にしまい込んでいた大切な過去を辿る旅に出ていたのだ。そして現実世界では、すぐ横に眠る娘を残したまま深夜の街に姿を消してしまうのだった…。

サリー・ポッター監督自身が若年性認知症を患った弟の介護をした体験に基づき、脚本を書きメガホンを取ったと言うだけあり、真に迫る内容となっている。

父レオ役のハビエル・バルデムの圧倒的な存在感、娘モリー役のエル・ファニングの献身的な姿に胸を打たれる。

2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。