すっかり秋となった札幌です。
昨日久しぶりに走ったら耳が冷えて痛くなったのに季節を感じました😅
雪虫も飛んでるし、初雪ももしかしたら今月中なのかもしれません。
さて、先日映画「ドライブ・マイ・カー」を観てきました。
村上春樹の短編小説の映画化作品ですね。
好きな小説の実写映画はほとんど観ないのですが(たいがい期待外れなので)、今回はかなり評判が良いということもあって珍しく劇場まで足を運びました。
STORY
脚本家の妻の音(おと)を突然亡くした舞台俳優の家福(かふく)。
二年後、喪失感の拭いきれない彼は、演出を任された演劇祭に愛車で向かった先で、専属ドライバーのみさきに出会った。
口数の少ない彼女が運転する愛車で過ごす時間の中で、家福は妻の残した秘密に向き合っていく。
原作は「女のいない男たち」という短編連作の一作目、「ドライブ・マイ・カー」より。
昨今の村上作品は積極的に読んでいないので、映画を観る前にまず本を買いました。
「女のいない男たち」というテーマに基づいて6つの短編が収録されているこの本、かなり面白かったです!
村上春樹作品が特に好きだったのは「ノルウェイの森」以前までだったのですが、それは現実世界の話より、異世界と共存してる世界の話の方が村上春樹らしく感じていたからだったと思います(極めて個人的に)
今回の短編集は現実世界の話なのですが、さすがに村上春樹だなあと思う不思議なエピソードと深い喪失感の表現がものすごく良かったです✨
(「木野」だけは境界線のお話ですが)
さて、それで映画の方はというと・・・
村上春樹の短編の実写化、という観点から言えば「村上作品であって村上作品ではない」という感想です。
50ページほどの短編を179分の長編映画にするのだから仕方のないところなのだけど、登場人物の設定を生かして様々なエピソードを盛り込み芸術的な作品に仕上げたという感じ。
原作はあくまでも土台、Based onでありました。(これは映画のテロップにもありましたけどね)
ネタバレになりますが、映画と小説の違いを少し。(原作視点で)
- 黄色のサーブ900コンバーティブルが赤いサーブ900ターボのサンルーフに変わっている。
- 家福と妻の音は演出作家や脚本家ではなく、ただの俳優。ベッドで物語を着想して脚本を書くという設定もない。
- 「ヴァーニャ伯父さん」はあくまでも家福の俳優の舞台であって、演出作品ではない。故に多言語劇を上演する広島の演劇祭の場面も全くない。なので高槻は「ヴァーニャ伯父さん」には全く関わっていない。
- 音の死因は子宮癌でくも膜下出血ではない。しかるべき入院生活を経て亡くなっている。(高槻は面会を断られていた)
- みさきの母の死は飲酒運転が原因であり、みさきは関わっていない。
- 家福とみさきが北海道までドライブする場面はない。
- 高槻に近づいたのは家福の方で、ある思惑を持ってである。
- みさきは車を引き継いではいない。(映画の最後にはそれっぽいシーンあり)
- 表記が原作では「ヴァーニャ伯父さん」映画では「ワーニャ伯父さん」(このブログでは原作を尊重して「ヴァーニャ伯父さん」表記としてます)
さらに「ヤツメウナギ」「空き巣」のくだりのお話は、短編集「女のいない男たち」の「シェラザード」に出てくる設定だし(こちらではことの後に女が話をする形)、帰ってきたら妻と男が最中だったというのは「木野」の過去のシーンに登場します。「正しく傷ついてこなかった」のくだりも「木野」のラストから。
同じテーマであることもあって話を融合させたということらしいです。
音のベッドでの物語はあり得ない設定な上(交霊っぽい)にけっこう怖い後日談まで語られていてちょっと違和感がありました。
とはいえ音の心情を語る上でのことだと思うので仕方ないかなとは思いますが・・
要するに、一部設定の他はまったく別のお話でありました😅
だからと言って全然ダメだったということではありません。
映画的にはかなり優れた芸術作品でした。
なんせ179分、約3時間、時間の長さを全く感じさせず物語に没頭できたのですから。
赤いサーブがあらゆる道路を走っていく映像がとても印象的でした。
キャストも非常に適切だったと思います。
特にみさき役の三浦透子さん、無表情な人物ながらふっと見せる感情の動きが素晴らしかった!犬の扱いとかもね、すごく良かったですね✨
ちょっと不思議な存在感のある方で実は音楽活動もされてるそうです。
「天気の子」の歌(グランドエスケープ)も歌ってるって聞いてびっくり!!
ものすごく印象に残ったのでこれからの活躍も追ってみたい。
みさきが運転するだけの動画なのに引き込まれてずっと観てしまう。音楽も美しい。
岡田将生さんも見え隠れする狂気の見せ方が良かったし、ラストの車での語りは本当に素晴らしかったです。(あの目が忘れられない・・・)
西島秀俊さん、霧島れいかさんも作品から出てきたような感じでしたし。
劇中劇「ヴァーニャ伯父さん」のキャスト、関係者の方々も良かったんですよね。
特にソーニャを演じるユナ役のパク・ユリムさんの透明感、手話から伝わる感情が沁みてくるようで・・・そしてとても美しい方でした。
濱口竜介監督の作品は今回が初めてでしたが、「音」にこだわりを感じました。
繰り返されるテープや読み合わせ稽古の抑揚のない声、北海道に着くとふっと消える背景の音、全編を通して流れるベートーベンの音楽。
そして演劇「ヴァーニャ伯父さん」のラストシーン。
ソーニャがヴァーニャに静かに手話で語りかけるシーンはもちろん無音。
なのにそこに溢れる情感と説得力は凄まじく、圧倒されました。
圧倒的な静けさの中で語られるソーニャの無音のことば。唯一無二の非常に美しいシーン。
また特筆すべきは「ヴァーニャ伯父さん」の話・台詞と本編の物語が密接にリンクしているということです。
車のカセットテープから流れる音の音声で語られる台詞や稽古で演じられるシーン、セリフなど全てがシンクロするように作られているんですね。
家福はヴァーニャ伯父さんに、みさきはソーニャと重ねて描かれています。
劇中で家福がヴァーニャ役を高槻に配役するのは、自分と同じ苦しみを高槻に与えたかったからではないかと思います。(原作でいう懲らしめるってやつ)
「ヴァーニャ伯父さん」が多言語劇となっているのも、映画に良いアクセントを与えていたのではないでしょうか。
どういう作りになっているのか最後までわからなかったんですけど、どうやら舞台の後ろに大きなスクリーンがあって台詞の各種言語のテロップが表示されていたみたいです。
なかなか面白い試みなので実際にあったら観てみたいなと思いました😊
村上春樹ならこんなにエモーショナルに書かなかっただろうと思いますが、観る者の心の奥底を揺さぶるような静かで激しい映画でありました。
とはいえ村上春樹の持つ淡々とした静けさのトーンは見事に再現されていたと思います。
ラストがなぜ韓国だったのかはいささか疑問ですが・・・(犬は可愛かったけど)
残念ながら札幌ではスガイでしかやっておらず、非常に小さな席数の少ないスクリーンで落ち着かなかったので、いずれまたゆっくり堪能したいです😅
深い喪失と絶望のトーンが作品を静かに包む。何度でも観たい不思議な美しさを持った秀作。
しかし村上春樹作品って映画化が少ないんですよね。
長編小説は「ノルウェイの森」くらいであとは短編小説の映画化ばかりなんです。
「トニー滝谷」「ハナレイ・ベイ」、海外ものは「バーニング」「神の子供たちはみな踊る」、かなり古い作品では「風の歌を聴け」(なんと小林薫主演!)「100%の女の子/パン屋再襲撃」といった感じ。
「トニー滝谷」はなかなか良かったです。
「パン屋再襲撃」は村上春樹の短編の中でもダントツに好きな話なのですが、1982年に映像化した作品では原作の不思議なユーモアやテンポが見事に台無しになっていて(笑)これはぜひ再映像化していただきたい作品です😆
イッセー尾形&宮沢りえで映像化された「トニー滝谷」。西島秀俊さんも語りで出演されてます。
それにしても絶対に映画化して欲しい「羊をめぐる冒険」や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」はなかなかならないですね〜😅
村上先生の許可が下りないのだろうか。
確かに映像化は難しそうだけど、「羊を〜」はギリ実写で、「世界の〜」はアニメーションでいける気はするんですけど。
そういえば、みさきの出身は北海道の上十二滝村なのですが、これ「羊をめぐる冒険」に出てくる十二滝町を意識してると思われます。
本来は実在の地名で書かれたようですが、クレームが来て変更されたみたいですね。
ファンとしては上十二滝村の方がロマンがあっていいなあ✨✨
村上春樹先生は早稲田大学の国際文学館(村上春樹ライブラリー)が設立されたことや、ノーベル文学賞の有力候補だったこともあり(残念な結果でしたが)ふたたび注目を集めてますね。
いろいろ落ちついたら絶対に村上ライブラリーに行ってみたい!!
個人的には再現された書斎とオーディオコーナーが気になります😊
想像力をかき立てるデザイン。村上ファンならぜひ一度は訪れたい新たな名所。羊男がいたよ!
BRUTUSも2刊に渡り「村上春樹特集」を発行してますし、TOKYO FMでも特集が組まれ、「村上ラジオ」が一挙放送になってるほかグッズの販売もあるそうです!😆
村上先生の声や喋り方はかなり独特であまり得意ではないけれど笑、音楽の知識はすごいですよね✨✨
フジモトマサルさんのイラストがついたグッズやCOEDOビールが発売予定です!
早速COEDOビールは予約しちゃいました〜🙌
ゴールデンエールの「風歌-Kazeuta」はもちろんデビュー作「風の歌を聴け」のタイトルから、ポーターの「闇黒-Yamikuro」は「世界の終りとハードボーイルド・ワンダーランド」に登場する魔物の名前からつけられてます。
この最高のネーミングの上、フジモトマサルさんのイラストがラベルになっているという素晴らしさよ!!
BRUTUS@BRUTUS_mag
村上春樹さんがDJをつとめるTOKYO FM『村上RADIO』が10月、さまざまなイベントを開催。 〈COEDO〉とのコラボビールは村上さんの小説『風の歌を聴け』から名付けられたゴールデンエールスタイルの『風歌-Kazeuta-… https://t.co/wAYGSCyHLB
2021年10月08日 21:58
COEDOはもともとの瓶もオシャレなので飲み終わった後も飾っておけるというすぐれものなのです✨✨
現在予約受付中で22日から順次発送予定だそうですッ😆
BRUTUSはもともと大好きな雑誌なので(毎回隅から隅まで手抜きがないのが凄い)もちろん購入しました!
後編も発売になったから明日買いに行こう😆
BRUTUS webで特集している「村上春樹のアートコレクション」も面白かったです✨
映画も気になったらぜひ観てみてください✨✨
原作もオススメです!
映画のパンフ、BRUTUS村上春樹特集上と短編集「女のいない男たち」、どれも読み応えありです!