英国のMRes課程で何が起きているのか
知っておきたい大学院留学の“今”
イギリスへの大学院留学を考えている皆さん、そしてそのご家族にとって、ここ数ヶ月の動きは決して無関係ではないはずです。
英国の複数の大学が、研究修士課程(MRes)の国際募集を相次いで停止または縮小しています。
ロバート・ゴードン大学、ダービー大学、グロスターシャー大学、グレーター・マンチェスター大学、ハートフォードシャー大学、ウォルバーハンプトン大学など、少なくとも6校以上が2026年秋入学のMRes申請受付を終了しました。ロバート・ゴードン大学の広報担当者は「秋入学向けのMRes課程に国際学生から非常に多くの出願があったため、募集を締め切らざるを得なかった」と説明しています。ダービー大学も同様の措置を取り、「国際学生募集に対する戦略的な見直しの一環」としています。
一見すると「一部の大学の話」に思えるかもしれません。しかし、この背後にある構造的な変化を理解しておくことは、これから留学を考えるすべての人にとって意味があります。
なぜMResに需要が集中したのか
発端は「家族帯同禁止」の抜け穴
2024年1月、英国政府は授業型修士課程(MScやMAなど)の留学生が配偶者や子どもを連れてくることを禁止しました。ところが研究型のMRes課程はこの禁止措置の対象外だったため、家族を連れて留学したい学生の需要が一気にMResに集中しました。
その結果、2024-25年度のMRes課程における海外からの留学生数は前年比135%増という異常な伸びを見せました。具体的には、2,485人だった国際学生が6,085人にまで増加しています。
特に一部の大学への集中が顕著でした。グレーター・マンチェスター大学(旧ボルトン大学)では、MResの国際学生数が4年前の24人から2025-26年には1,748人にまで急増。ヨーク・セント・ジョン大学でも1人から387人へと拡大しました。
内務省の調査と新ルール
“抜け穴”は許されない
内務省(Home Office)はこの急増を「移民ルールの抜け穴を利用したもの」と見なして調査を開始。一部の留学エージェントがMResコースを「家族ビザ取得の迂回ルート」として販売していたとの懸念も浮上しました。実際、あるエージェントのウェブサイトでは「このユニークな2年間のプログラムは、リサーチプロポーザルが不要で、扶養家族を連れて来ることができます!」といった文言でMResコースが宣伝されていたことが報じられています。
さらに英国政府は、大学の留学生受け入れ状況を評価する新たなコンプライアンス評価制度(Red-Amber-Green/赤・黄・緑の評価体系) を2026年6月から導入しました。この制度では、ビザ拒否率が5%を超えると大学の留学生スポンサーライセンスが危険にさらされる可能性があります。
大学業界団体のUniversities UKはすでに加盟大学に対し、MResの募集拡大を止めるよう呼びかけており、その会長マルコム・プレス氏は「この問題は業界の信頼を損なう可能性がある」と警告していました。
大学側としては、リスクを回避するために募集を縮小せざるを得なかった——これが今回の構図です。
日本人留学生への影響は?
ここで気になるのは、日本人の進学先としての選択肢にどのような影響があるのかという点です。
① MResを第一志望としていた方
2026年秋入学を目指していた場合、上記の大学ではすでに募集が締め切られています。ただし、各大学とも今後の入学者向けの募集は引き続き行うとしています。ロバート・ゴードン大学は2027年2月入学の募集をすでに開始しています。2027年以降の入学を検討している方は、各大学の最新情報を直接確認する必要があります。
② 授業型修士(MSc・MAなど)を検討している方
今回の動きはMResに限定されています。授業型の修士課程や博士課程(PhD)の募集に直接の影響は今のところ出ていません。
③ 長期的な視点
内務省は当初、MRes課程にも家族帯同禁止を拡大する可能性を検討していましたが、現在はより慎重で対象を絞った対応を取る方向に傾いています。これはラッセル・グループ(名門研究大学連合) などからの反対意見を受けたためです。
とはいえ、UK Visas and Immigration(UKVI)はMResの募集を大幅に増やした大学とすでに接触しており、引き続き監視の目は緩めない姿勢を示しています。
これから留学を考える方へ——3つのポイント──
イギリスは依然として日本人留学生にとって魅力的な進学先です。しかし、ビザ政策が流動的であることを意識しておく必要があります。
MResを検討している方:志望校の募集状況を直接大学に確認することが不可欠です。エージェントの情報だけでなく、大学の公式サイトで最新情報をチェックしましょう。
授業型修士を検討している方:現時点で直接の影響はありませんが、英語要件の引き上げや申請期限の前倒し、面接プロセスの強化などが進められている大学もあります。余裕を持った準備を心がけてください。
家族帯同を考えている方:MResルートは依然として家族帯同が可能な数少ない選択肢の一つですが、この「窓口」もいつ閉鎖されてもおかしくない状況です。最新のビザ情報を常にウォッチしてください。
──高校生の親御さんへ──
このニュースを読んで、「我が家にはまだ関係ない」と思われたかもしれません。でも、今、中学や高校に通うお子さんが大学院留学を考える頃には、この流れはさらに加速している可能性が高いです。
① 留学環境は「数年先」を見据えて考える時代になった
今回のMRes騒動が示しているのは、英国のビザ政策が“需要”に反応して刻々と変化するということです。2024年に授業型修士の家族帯同が禁止され、その「抜け穴」としてMResに需要が集中し、わずか1〜2年で募集停止に至りました。
お子さんが大学生になるのは数年後、大学院を考えるのはさらにその先です。今のルールがそのまま続くとは限りません。むしろ、変化を前提にした長期的な視点が求められます。
② 「名前のある大学」だけが安全とは限らない
今回募集を停止した大学の中には、それほど有名でない大学も含まれています。しかしラッセル・グループでさえ、内務省に懸念を表明し、政策の行方を注視しているのが実情です。
「いい大学に行けば大丈夫」という考え方は、もはや通用しません。どの大学であれ、ビザ政策の変化はすべての留学生に影響を及ぼすという認識を持つ必要があります。
③ 親として今できること
情報収集の習慣を:英国留学に限らず、海外進学を視野に入れるなら、ビザ政策や各国の留学環境の変化を定期的にチェックする習慣をつけましょう。1年単位で状況が変わります。
複数の選択肢を:特定の国・特定のコースにこだわりすぎず、柔軟な進路選択ができるようにしておくことが、結局はリスク回避につながります。
「なぜ留学するのか」を一緒に考える:MResに殺到した学生の多くは「家族を連れて行けるから」という理由でコースを選びました。本来の学びたい内容ではなく、ビザの都合で進路を決めることのリスクを、お子さんと話し合う良い機会かもしれません。
④ 最後に
今回の一件は、「需要が先走り、ルールが後から追いかけて締め付けられる」 という、国際教育の現場で繰り返されるパターンを如実に示しています。
お子さんが海外進学を考える頃には、今とはまったく違うルールになっているかもしれません。それでも、「変化に対応できる柔軟さ」と「本来の学びたいことを軸にした進路選択」 を身につけておけば、どんな状況でも道は開けるはずです。
まとめ:MResコースを狙っていた方は選択肢が一時的に狭まっていますが、イギリス大学院留学そのものが困難になったわけではありません。むしろ政策の変化に敏感になり、計画的に準備を進めることの重要性が改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。最新情報をこまめにチェックし、柔軟な選択肢を持って進学先を検討することをお勧めします。
本記事のデータはTimes Higher Educationの報道(2025-2026年)および各大学の公式発表に基づいています。最新の情報は各大学の公式サイトおよび英国政府の発表をご確認ください。