インター校の「エレベーター禁止ルール」が示す、本当の“配慮”の形


先日、ある学校関連のSNSが目に留まりました。
「ビルタイプの校舎で、生徒もエレベーターが利用できる学校がある」

それ自体は「へえ、そうなんだ」で終わる話です。でも、その後に続くコメントに、私は少し驚きました。

「生徒で満員のエレベーターに、教師とゲストが途中から乗れなかった」
「冗談半分で『先生、健康のために歩いてくださいよ』って言われた」

もちろん、ネタなのかもしれませんね。

でも、とにかく、この話自体がインター校では絶対にありえない光景です。

インターナショナルスクールの“当たり前”をみていきましょう。
 

まず世界主要国・地域のエレベーター設置状況から

 

 

北米(アメリカ・カナダ)

アメリカでは、ADA( Americans with Disabilities Act) により、公共施設である学校にはエレベーターを含むバリアフリー設備の設置が義務付けられています。特に2階建て以上の校舎では、車いすユーザーを含むすべての人がアクセスできるよう設計することが法律で求められています。

カナダでも同様に、州ごとの建築基準法に基づき、障害者差別禁止法のもとでエレベーター設置が義務化されています。

設置率:ほぼ100%(法的義務のため)

ヨーロッパ(イギリス・スイス・ドイツなど)
 

EU圏では、EN 81-70(エレベーターのバリアフリー基準) や各国の建築基準法により、公共建築物へのエレベーター設置が広く義務付けられています。

スイス(ICS Zurich) :新築のPavilion校舎にはエレベーターを設置し、全フロアへのアクセスを確保

ドイツ(International School Basel) :複数キャンパスを持つが、各キャンパスでアクセシビリティを確保

ハンガリー(International School of Budapest) :キャンパスは市の各地域とよく接続され、必要な設備を完備

設置率:ほぼ100%(新築・改築時は法的義務)

 

 

オセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)


オーストラリアでは Disability Discrimination Act 1992 と Building Code of Australia により、公共施設のバリアフリー化が義務付けられています。ニュージーランドでも Building Code clause D1 Access routes がエレベーターを含むアクセス経路を規定しています。

設置率:ほぼ100%

中東(UAE・カタールなど)
 

中東の主要インター校でも、近代的な施設を謳う学校ほどエレベーター設置が標準化されています。

UAE・アジュマン(Cosmopolitan International Indian School) :エレベーターを完備し、移動に制限のある生徒が独立して移動できる環境を提供

ただし、地域によっては建築基準の enforcement にばらつきがあるため、すべての学校で完全なバリアフリーが実現しているわけではありません。

設置率:都市部の主要校では80〜95%程度(推定)

 

 

アジア主要4都市の状況

① 東京(日本)
 

日本のインターナショナルスクールは、バリアフリー法(建築物移動等円滑化基準) の対象となります。ただし、公立小中学校のエレベーター設置率は約29%にとどまるなど、日本の学校全体ではまだ整備が進んでいるとは言えません。

一方、インターナショナルスクールは民間施設として、比較的積極的にバリアフリー化を進めています。

さくらインターナショナルスクール日本橋校:専用入り口とエレベーターを設置

UIA International School of Tokyo(木場) :エレベーターで3階の受付へアクセス

東京インターナショナルプログレッシブスクール:2021年に新校舎を建設

設置率:主要インター校では80〜90%以上(推定)

 

↓インター校を受験する?面接にいく? その前にかならず。

 

② シンガポール

シンガポールは Building and Construction Authority (BCA) のアクセシビリティ基準 により、公共施設へのバリアフリー設備設置が義務付けられています。多くのインター校はこの基準を満たすか、それを上回る施設を提供しています。

INSEAD Asia Campus:スロープや広い通路に加え、車いすやベビーカーに対応した広々としたリフトを設置

UWCSEA:ユニバーサルアクセシビリティ機能を備えたサステナブルデザインで評価

Dulwich College (Singapore) :車いす対応の入口と駐車場を完備

GIIS SMART Campus:テクノロジーを活用した学習モデルのキャンパス

設置率:ほぼ100%(法的義務+先進的な施設基準)

 

 

③ 香港

香港では 建築物条例(Building (Planning) Regulations) により、バリアフリーアクセスが義務付けられています。インター校の多くはこの基準を満たしています。

German Swiss International School (The Peak Campus) :車いすアクセス対応

Hong Kong Academy :車いすアクセス対応

Kingston International School :アクセシビリティ声明を公開

Singapore International School (Hong Kong) :バリアフリーアクセスキャンパス

ただし、香港のインターナショナルスクールの中には「バリアフリーアクセスなし」と明記している学校も一部存在します。

設置率:主要校では90%以上、一部旧式校舎では未対応のケースもありますが、改修は順次すすめています。

④ 上海(中国)


中国では 「無障礙環境建設条例」 (バリアフリー環境建設条例)により、公共施設のバリアフリー化が進められています。上海はその中でも特に先進的な都市です。

Nord Anglia International School (Shanghai, Pudong) :車いすアクセス対応

上海協和双语学校:複数キャンパスを持ち、IBやA-Levelなど多様な課程を提供

上海青浦区:2024年に一部学校へのエレベーター設置工事を公開入札

ただし、中国の建築基準は比較的新しく、すべての学校で完全にバリアフリーが実現しているわけではありません。

設置率:新築・改築校では80〜90%、旧式校舎では未整備のケースも

 

私が知る多くのインターナショナルスクール(IB校含む)では、エレベーターは「必要とする人のためのもの」というルールが徹底されています。

車いすユーザーの生徒・職員
足を骨折して松葉杖を使っている生徒
階段の昇降が医師から制限されている子
骨折などで一時的にでも移動に困難がある人

そうした人たちが確実に使えるように、エレベーターは常に空きを確保するのが暗黙の了解です。

だからこそ、健常な生徒は基本的にエレベーターを使用禁止。使っていいのは教師や用務員、来訪者など、業務上やむを得ない場合に限られます。

 

↓インター校や国際バカロレア、帰国生の話し

 

「エレベーターがあること」と「生徒が自由に使えること」は全く別の話です。インター校では、設備が整っているからこそ、「必要な人が確実に使える」という運用ルールが徹底されている

なぜ「生徒禁止」なのか? 逆説的な“平等”


「障がい者に配慮するなら、むしろ全員が使えるほうが平等では?」と思う方もいるかもしれません。

でも、インター校の考え方は違います。

「使える人が使う」のではなく、「必要な人が必ず使えるようにする」それが真のインクルーシブ教育の現場です。

エレベーターのキャパシティは限られています。もし全生徒が自由に使えるようにしたら、満員で本当に必要な人が乗れなくなる。これは機会の不平等を生みます。

だからこそ、ルールで制限することで、弱者が後回しにされない環境を“デザイン”しているのです。

日本の学校で起きていた“違和感”の正体


先のツイートのケースでは、生徒がエレベーターを埋め尽くし、教師やゲストが入れなかっただけでなく、笑い話のように「歩け」と言われたそうです。

これは、日本では「エレベーター=誰でも使える便利なもの」という認識が広く共有されているからでしょう。でも、国際的な教育現場の感覚からすると、そこに“優先順位”の視点が欠けているように映ります。

教師やゲストが「歩け」と言われて笑って済むのは、まだ軽傷です。もしそのエレベーターに、車いすの生徒が待っていたら? 松葉杖の子が後ろで順番を待っていたら?
その子たちは、笑い話にはできません。なら譲っただおろう? 

ルールは「制限」ではなく「セーフティネット」


インター校のエレベータールールは、決して生徒を「不便にするため」のものではありません。

むしろ、「もし自分がケガをしたら」「もし自分が障がいを持っていたら」そのときに、必ず使える仕組みが整っていることが、すべての生徒へのメッセージになっています。

つまり、健常な生徒が階段を使うことは、彼ら自身の“社会貢献”でもあるのです。ささやかながら、誰かのためのスペースを空ける、それが当たり前にできる文化。それを学校全体で育てています。

 

 

日本でも変わりつつある? それでも…

最近では日本の学校でも、バリアフリー法の改正などでエレベーター設置が進んでいます。しかし運用ルールまで国際標準になっているかというと、まだまだこれからの印象です。

「使えるから使う」ではなく、「誰が本当に必要か」を考えて使う、そんなエレベーター・エチケットが、これからの学校には求められているのではないでしょうか。
 

子どもたちに伝えたいこと
もしあなたの学校にエレベーターがあるなら、一度考えてみてください。

「自分が今階段を使うことが、誰かの今を楽にしているかもしれない」そう思えるかどうか。インター校の生徒たちは、この問いに対して「階段を選ぶ」という答えを、日常的に実践しています。

それは決して「我慢」ではなく、「思いやりのある選択」として。

エレベーターのルールひとつとっても、その学校の“インクルージョンへの本気度”が見える。そんな気がします。