風邪が治っても咳が止まらない…それ、もしかしたら「チック」かもしれません

「熱も下がったし、鼻水も出ていない。風邪はすっかり治ったはずなのに、なぜか子どもが『エヘン、エヘン』と乾いた咳や咳払いを続けている…」

 

病院に連れて行き、吸入薬や咳止め薬を処方されても、なかなか改善しない。そもそも、喉は赤くない。アレルギーでもない。

 

もしかしたらそれは、「感染後咳嗽(かぜ症候群後の咳)」 という、いわゆる長引く咳の一種かもしれません。しかし、そこにもう一つ、見逃してはいけない可能性があります。それは 「チック」 の始まりというケースです。

 

今回は、一見すると「しつこい咳」に見えるものの正体と、その中でも特に見過ごされがちな「咳チック」について、そしてもしチックだった場合にどのように向き合っていけばよいのかをお伝えします。

「咳が出る」のは、体のサイン

風邪のウイルスが気道の粘膜に炎症を起こすと、私たちはそれを追い出そうとして咳をします。通常、炎症が治まれば咳も収まります。しかし、炎症が治まった後も、過敏になった気管支が少しの刺激で反応してしまう状態が続くことがあり、これが「感染後咳嗽」です。

 

 

これはれっきとした身体的な症状であり、適切なケアや時間の経過とともに改善していくものです。

 

しかし、ここでひとつ、親御さんに観察していただきたいポイントがあります。それは、「お子さんが何かに夢中になっているとき、咳は出るのか、それとも出なくなるのか」 という点です。

 

遊びに熱中しているとき、テレビやゲームに集中しているとき、あるいは宿題などで注意を深く向けているとき。そういった「無意識」の時間帯に、ピタッと咳が止まるのであれば、それは身体的な炎症が原因ではない可能性が浮かび上がってきます。

心の声としての「咳」―チックとは何か

チックとは、自分の意思とは無関係に、急激で、繰り返し行われる運動や発声のことです。まばたき、顔をしかめる、首をひねるなどの「運動チック」と、咳ばらいや鼻すする、セリフを繰り返すなどの「音声チック」があります。

 

これらはチックと診断されても、子どもにとっては「首が痛いからやる」「なんだか難しいからやる」と、症状があってその反射のように言ってきます。それがチックの症状でもあります。

 

近年、特に増えているとされるのが、この「咳チック」です。本人も無意識のうちに「コン、コン」と咳をしてしまう。本人にとっては、そうしないと落ち着かない、あるいは「喉に違和感がある」という感覚を伴うことも少なくありません。イガイガすると言うこともあります。

 

 

ここで難しいのは、この「喉の違和感」です。実際に本人は「喉がイガイガする」と感じているため、本人も周囲も「何か身体に問題があるのだ」と思い込んでしまいます。しかし、それはチックによって生じた感覚(前兆感覚)である場合があります。つまり、「気持ち悪いから咳をする」のではなく、「咳をしなければならないという衝動が、喉の違和感として知覚される」 という逆転した状態なのです。

 

医師の診察で、聴診上は異常がなく、レントゲンでも問題が見つからなければ、親御さんは「なぜ治らないのか」と焦り、お子さん自身も「自分は病気なんだ」と不安になってしまいます。これは、チックという現象の難しいところであり、判断が分かれるところです。

早すぎる「認定」は必要ないけれど

ここで一つ、強調しておきたいことがあります。それは、あまりに早い段階で「これはチックだ」と断定してしまう必要はない ということです。

 

お子さんの成長過程では、一過性にチックのような症状が出ることは珍しくありません。生徒の半数は多少のチックを経験しています。鉛筆回しもその1つと言われることもあります。指を動かしてしまうチックの症状の一種ですね。

 

ストレスや疲れ、環境の変化などがきっかけで一時的に現れ、数週間から数ヶ月で自然に消えていくことも多々あります。また、やはり身体的な要因(アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎など)が隠れている場合もあります。

 

大切なのは、医療機関で「器質的な病気(身体に原因のある病気)」が否定されたにもかかわらず、症状が長引いている場合、そろそろ視点を「心や神経のサイン」としてのチックに切り替えてみるということです。

 

お子さんが咳をするたびに「また咳をしている」「やめて」と注意することは、かえってチックを悪化させる原因になります。チックは、意識すればするほど強く出てしまうという特徴があるからです。もしチックが疑われるのであれば、まずは「気にしない」という対応が、実は最も効果的な初期対応であることが多いのです。

学校という社会の中で―理解されない辛さ

チックが厄介なのは、症状そのものよりも、その周囲の反応にある場合があります。

 

学校という集団生活の場において、頻繁な咳は「迷惑」と捉えられがちです。本人はコントロールできないのに、「静かにして」「うつるからマスクをして」と言われ続ける。すると、お子さんは「自分は悪いことをしている」という罪悪感を抱き、周囲の目を過剰に気にするようになります。

 

また、周りの子どもたちにとって、理由もなく咳を繰り返す同級生は「気持ち悪い」と感じる対象になりかねません。からかいや無視、最悪の場合、いじめに発展してしまうこともあります。チックのある子どもの多くが、学校生活において何らかの「生きづらさ」を経験していると言っても過言ではありません。

 

親御さんとしては、「ただの癖だろう」と軽く見るのではなく、これがお子さんの社会生活にどのような影響を与えているのかを、敏感に察知してあげる必要があります。

コロナ禍で増えた「大人のチック」

ここで特筆すべきは、新型コロナウイルス感染症の流行以降、この「咳チック」に悩む方が、子どもだけでなく大人にも顕著に増えているという点です。

 

通常チックの症状は年齢が上がっていくにしたがって解消されます。特に、環境などが大きく変わる大学進学や就職でチックが自然と消えていくことが多くあります。しかし、それが今大きく変化しています。

 

感染症への過剰なほどの警戒、マスク着用の徹底、他者に移してはいけないという責任感。こうした社会全体の緊張感の中で、無意識のうちに「咳払い」や「軽い咳」が習慣化、あるいはチックとして定着してしまったケースが報告されています。

 

つまり、この記事をお読みの親御さんご自身が、もしかすると「なんとなく喉を鳴らしてしまう」「気づくと咳をしている」という状態になっている可能性もあります。子どもだけの問題と捉えず、「親子で向き合う課題」 として捉えることで、お子さんも「自分だけが変なのではない」という安心感を持てるようになります。

そろそろチック対策を始めませんか?

医師から「特に体に問題はありません」と言われ、それでもなお咳が続く。お子さんが「喉がイガイガする」と言い、集中しているときだけ咳が出ない。周囲の目が気になって、学校に行き渋るようになった。もしかしたら、それはお子さんからの「助けて」というサインかもしれません。

 

このような状況になったら、そろそろ「チック対策」という視点で環境を整え始めてみてはいかがでしょうか。チックの改善には、規則正しい生活、睡眠の確保、ストレスの軽減、そして何より「症状を気にしない」という家族の寛容な態度が何よりの薬です。

 

しかし、これらは理想論としてわかっていても、実際に目の前で我が子が咳を繰り返しているのを見ると、心配で仕方なくなり、「どうにかしてあげたい」という気持ちが先行してしまいます。そんな時、具体的にどのように声をかけ、どのように環境を整え、どのように学校と連携していけばいいのか。一歩踏み出せずに悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか。

親子で読める、実践的な一冊

ここで、そんな悩める親御さんと、お子さん自身にぜひ手に取っていただきたい一冊をご紹介します。

 

 

この本は、単に医学的な知識を羅列するだけではありません。チック症のメカニズムをわかりやすく解説し、家庭でできる具体的な対処法、学校の先生への効果的な伝え方、本人が自分の症状とどう向き合っていけばよいかという心構えまで、幅広くカバーしています。

 

「自分はおかしいんじゃない」「病気なんじゃない」という不安を抱える子どもに対して、「無理に止めようとしなくていいんだよ」と優しく教えてくれます。

 

また、コロナ禍以降に増加している「大人のチック」についても触れられており、親御さん自身が自身の症状に気づき、ケアする方法も学ぶことができます。親子で「これはしかたがないこと」「みんなで乗り越えていこう」という共通認識を持てるようになる、まさに今の時代に必要な一冊です。

 

咳ひとつをとっても、そこには身体の炎症、アレルギー、そして心のサインとしてのチックなど、さまざまな背景があります。どんな原因であれ、お子さんが「何かおかしい」と感じているサインであることに変わりはありません。

 

まずは、お子さんの症状をじっくりと観察してみてください。そして、もし「もしかしたらチック?」と感じられたなら、一人で抱え込まず、専門書の力を借りたり、専門医に相談したりすることをお勧めします。

 

「風邪が治っても咳が続く」という小さな違和感が、親子で向き合う大きなきっかけになるかもしれません。