日本とアメリカ、新卒給与に現れた「二つの物語」

 

日米の新卒市場が今、対照的な局面を迎えている。

 

アメリカの大学新卒者の初任給は、ここ数年下降トレンドにある。正確に「4年間で15%下落した」という公式統計を本稿執筆時点で確認することはできなかったが、複数の調査結果を総合すれば、少なくとも成長が鈍化・分野別に格差が拡大していることは確かだ。NACEの2026年調査では、コンピュータサイエンスなど一部専攻は6.9%の上昇を見込む一方、社会科学系は1.7%の低下を予測。米国全体として「若年層の賃金が力強く上昇している」とは言い難い状況にある。Glassdoorの分析も、早期キャリア層の賃金成長がようやく2026年にインフレを上回る見通しと報じており、それまでの数年が厳しかったことを示唆している。

 

そもそも、コンピューターサイエンスでの就職が難しくなった今、新卒給与を比較することが無駄になっているとも言える。

 

これに対し、日本の新卒初任給は上昇を続けている。現時点でもコンピューターサイエンス卒業者もひっぱりだこと言っても問題ない。

 

2025年4月入社の大卒初任給平均は239,280円(前年比5.0%増)。30万円台を提示する企業も珍しくなくなり、ユニクロを運営するファーストリテイリングは2026年3月入社からグローバルリーダー候補の初任給を37万円(年収590万円)に引き上げる。地方銀行でも28万円、半導体企業でも40万円といった事例が相次ぎ、人手不足と採用競争の激化が初任給を押し上げている。

しかし、ここから先の話が日本の場合、まだ見えていない。つまり、給与は毎年上がっていくのか、その新卒時点の給与が数年、もしかしたら5年間程度維持されてしまうのか?

アメリカの新卒給与が低迷しているとしても、彼らの10年後の給与は統計的に予測可能である。職種・地域・業績に応じて、相応の上昇カーブを描く。上場企業の報酬開示データも整備され、「キャリアを積めば報われる」という期待が崩れたわけではない。もちろん、新卒での就職は難しいが、インターンや海外で就職したあと転職してアメリカに戻るなど、道はある。ビザの問題は大きいが、おそらく4年後には解決している。

 

問題は日本である。

 

初任給だけが突出して上昇する現状は、「入社7年目の先輩が、新入社員とほぼ同じ給与になっている」という逆転現象を各地で生んでいる。東洋経済の報道によれば、バンダイや明治安田生命、KDDIなどは既存社員の賃上げでこの事態に対応しているが、それは「対応できている企業」の話だ。中小企業を含め、全企業が同じ措置をとれるわけではない。つまり、日本の新卒は入社時に高い初任給を得られるが、その後の伸びが約束されていない。これでは10年後の自分を想像することが難しいのだ。


「10年後にいくらもらえるのか」。現時点では誰も確信を持って答えられない。連合は2026年春闘でも賃上げを要求する構えだが、それはあくまで「初任給の高い水準を維持する」ための交渉であり、30代・40代の処遇をどう再構築するかは、これからの課題である。

 

新卒で給与が高い人材(新卒入社社員)が給与に応じて能力も高いということではない。つまり、今の30代とかわらない道を歩くだけ。最初の給与く、物価も同様にかなり高くなっただけ。

 

海外大学 合格の 手引き

 

日米の違いは、制度の差でもある。

アメリカなど日本以外の国ではジョブ型雇用が基本だ。初任給は市場価値で決まり、景気や需給で上下する。今回の低迷は、ITバブル崩壊後の調整やリモートワークの定着による地理的需給の変化など、構造要因が複数重なった結果だろう。だが、入社後に成果を出せば報酬は上がる。「ニューカラー」と呼ばれる学位不問の高収入職も登場し、キャリアの選択肢は多様化している。

 

日本はメンバーシップ型が主流だ。初任給は企業が「人材獲得競争」の手段として戦略的に引き上げる。しかし、その原資は限られている。経団連が「賃金カーブ全体の見直し」を言及するのも、初任給だけを上げると中核層のモチベーション低下と人材流出を招くからだ。

 

初任給は上がった。若者にとって入口は確かに広がった。

 

だが、その先の階段が整備されているか。10年後、彼らが「あのときの決断は正しかった」と思えるかどうか。日本の「入口は広く、出口は見えない」構造が持続可能かは、この10年で明らかになる。

 

日本の新卒が今、手にしているのは高い初任給と、まだ誰も見たことのない未来だけだ。