奈良で暮らす私は、お正月に55年ぶりに故郷を訪ねた。

 

小学生から中学生のころに住んでいた町は、私の記憶とは別の世界になっていた。

 

ザリガニやタイワンドジョウで遊んだ池は姿を消していた。

 

古い家は老人ホームに変わっていた。私は、自分の歳を感じた。

 

73歳になった私は、この町にはもう居場所がないのだと思った。

 

田んぼは埋め立てられ、木造の住宅が建ち並びその家々は古い家並みになっていた。

 

私は、自分の住んでいた家を探したが、見つけることができない。

 

多分、この新しいマンションだろう。私は、自分の過去を失ったのだと思った。

 

しかし、そのマンションの一室から、子供の声が聞こえてきた。私は、故郷にも未来があるのだと思った。

 

 

駅までの商店街は、昔と変わらないままだった。お菓子屋や本屋や理髪店が並んでいた。

 

私は、子供の頃によく通った店に入ってみた。店主は、私の顔を見て笑ってくれた。私は、故郷を少し感じた。

 

 

商店街の洋食屋さんに入ってみると店主は私の同級生だった。

 

私は、彼の顔を見て驚き、彼も、私のことをすぐに認めてくれた。

 

私たちは、昔話に花を咲かせ、彼は、私に故郷の変化や出来事を教えてくれた。

 

私は、故郷にも友達がいるのだと思った。私は、故郷の変化に驚きながらも、故郷の人々の温かさに触れて、故郷を少し愛おしく感じた。