1998年頃でしょうか。
広島県江田島市の叔父さんが家を新築することになりました。
建設地は、江田島市の江田島と能美島とで形成された江田湾に面するとても眺望の良い立地です。
かつて叔父さんは、江田湾の中に位置する高田港の前で旅館を営んでいました。
しかし、目の前の海が埋め立てになってしまい、家から海が見えなくなってしまいました。
新しい港の前に土地を購入し、海がきれいに見える家を建てることになりました。
・・・
私が広島に転勤しているときでしたので、設計を頼まれました。
土地の形状は、間口が狭く、奥行きの深い土地でしたので、和風住宅では似合いません。
私は、廿日市市四季が丘で温めていたコンセプト「チョコレートハウス」を叔父さんに提案しました。(結局、四季が丘では実現していません)
叔母さんは、最初、面食らったようですが、屋根瓦、外構、外壁レンガをどうするか、などを説明して、港の前に建つシンボル的な家になることをお話ししました。
予算は、私は知りませんが、叔父さんは、私の図面を村の棟梁に渡して見積を取りました。
予算が分からない仕事は初めてです。
私は、「村の棟梁? 大丈夫?」と思いました。
昔ながらの石場建ての伝統工法の家なら分かります。
棟梁は、私が描いた在来木造の構造図から、「板図」を描いてこられました。
「板図」は、墨付け(すみつけ)をする棟梁が、平面と軸組構造を決定し、その後の木拾い、墨付、木材加工作業のための図面です。
「板図」の呼称は、「イタズ」「カンバンイタ」とかいろいろありますが、板の上に描いているので、このように呼ばれています。
棟梁の板図は、番付けと呼ばれる座標、「い、ろ、は」、「一、二、三」の文字や数字が描かれていました。
縦方向の座標の原点を上辺にとり下方向に数字が増える「下り番付け」です。
墨指し、差し金による板の作成で、方眼の1単位は、私の図面通り、メートリ単位でした。
4寸角のヒノキ柱を使う仕様になっています。
棟梁に敬意を表して、板図を見せていただき、図面との食い違いのみ、指摘させていただきました。
棟梁は、「今はどんな図面にも対応しないと!」と言っておられました。
昔から大工さんによる木造の設計施工の根幹をなす技術手段が「板図」です。
今のようにプレカットではない本格的な「板図」を見せていただき貴重な体験となりました。
家が完成しました。
やはり、船からよく見えます。
皆さん「チョコレートハウス」と呼んでくださいます。
叔母さんは、「家からこんなおばあちゃんが出てきたらびっくりよ!」と笑っておられました。