ロシアの侵攻を予言した映画
民間人の犠牲が後を絶たないウクライナ戦争。ウクライナとロシアは停戦交渉を重ね、国際社会も事態の鎮静化を図り動いているが、終戦の兆しは見えてこない。ロシアは日本の北方領土でも軍事演習を開始し、欧米に歩調を合わせて経済制裁に踏み切った日本を牽制している。もし、ウクライナが完全にロシアの手に落ちれば、バルト三国などさらに西側の国が危機にさらされるのではないかと言われているが、ロシアによる旧ソ連の衛星諸国への侵略を予言したコメディ映画がある。2004年公開、スティーブン・スピルバーグ監督の「ターミナル」だ。ターミナル [Blu-ray]Amazon(アマゾン)973〜4,302円トム・ハンクス演じるビクター・ナボルスキーは、アメリカのJFK国際空港に到着するが、飛行機に乗っている最中に母国のクラコウジア共和国でクーデターが起き、内戦が勃発。革命によって誕生した新政府が国境を封鎖したため、ビクターのパスポートは無効となり、アメリカに入国できないだけでなく母国にも帰れなくなり、空港のターミナル内で生活を始めるというストーリーだ。架空の国、クラコウジア共和国は旧ソ連の衛星国という設定だが、現在のジョージアがモデルとされている。作品の中で「80年代から90年代にかけて」「共産主義から新体制へ」という説明もあり、これらもジョージアの歴史と近いところがある。実は、映画が公開されてから4年後の2008年夏、北京オリピックが開催されているさなかに、突如ロシアがこのジョージアに侵攻。当時、ジョージアはグルジアという国名だった。クラコウジアとグルジア、その国名も似ている。ジョージアは国名が変わり、現在は親ロシア国のひとつとなっている。ちなみに、作品の中でビクターが所持しているパスポートは、同じ親ロシア国のベラルーシのものと酷似している。作品の中で、クラコウジア共和国は革命によって大統領の側近たちが殺害されるものの、市民への被害は少なく、やがて平和的解決を迎えることになる。しかし、現実は映画のようにいかないものだ。ロシアによるグルジア侵攻では大勢の民間人が犠牲となり、難民も発生した。そしていま、ウクライナでも同じことが起きている。映画と現実は違うという点で、もうひとつ紹介することがある。この「ターミナル」という映画、実話をモデルにしている。イラン国籍の難民男性、マーハン・カリミ・ナセリが、フランスのシャルル・ド・ゴール空港のターミナルで20年近くも生活した事実がベースとなっている。ドゴール空港で生活していた時のナセリ(wikipediaより)しかし、ナボルスキーのようにフライトアテンダントとの淡い恋もなければ、空港職員たちと友情を育んだ話もない。ナセリは自身をモデルにした映画ターミナルの公開に、ポスターを手に「そう、映画のせいで僕のアメリカへの関心は強まっているよ。いいことだろ」と語ったこともあり、アメリカへの移住も考えていた。しかし、すでにナセリは精神を病んでしまっており、病に倒れて病院に搬送され、空港生活を終えた。今回のウクライナ戦争でも、彼のような難民がひとりでも救われることを祈る。