寂し気なペンギンの横顔が列車のスピードで徐々に遠ざかっていく。
私は一人席に座って状況を頭で整理しようと思うのだが、記憶が不明の状態だ。
従ってドーム以降の記憶でこの先をどうするか考えなくてはいけない。
まず私はペンギンを全面的に信用する立場だ。それ
以外私にここで生きるすべはない。
だから従った。そしてペンギンの誘導に従って、私は今ロケットが打ち上げられている
夢機関という中枢にに向かっている。
しかし、ペンギンとの対話はどこか煮え切らず、彼が(彼女)含みを持たせているのは分かる。
恐らく、ウーゴを全面的に信頼していいのか判断が出来ないのだろうと私は感じ取った。
「珍しい!」
目の前に中年女性が立っている。
「え?」私はまるでこの車両は自分しかいないと思っていたのに、
連結部のドアから女性が入ってくるのが見えた。
頭には派手なパーマをあてていて髪が顔の2倍はある。
赤いコートにグレーのスラックス。
背はあまり高くないけど、ふくよかだ。いや太ってる。
柑橘系のフレグランスの匂い。
彼女はたくさん空いている席の中、私の隣に座った「珍しい!」といいながら。
「え?」と私は言う。
「夢機関行くんでしょう?あなた」
「はい」
「なかなかいないのよ。夢機関に入らないとこの電車乗る人」
派手な格好の割に物腰の柔らかな夫人年齢は40代かそれ以上か。
私に危害を与えるような人には見えなかった。むしろ
どこか懐かしい感じがよみがってくるような親密感。
「お仕事かなにかでしょうか」と私は自然な会話を試みる。
「そうそう。こう見えて私ジャズバーで歌ってるの。
お店の名刺あるんだけどいる?」
「はい」と言って私は名刺を受け取った。<グリーン>とジャズバーの店名が書かれていて、
その下には<メリー>という彼女の名前があった。
「メリーさんですか?」
と私が聞くとメリーはちょっと驚いた顔をする。
「私のこと知らないの?」
「ごめんなさい。まだあまり慣れてなくて」
そういうとメリーはカバンからアメを取り出す。
「アメあげる」
「ありがとうございます」
メリーと私はアメを舐める。
「おいしい?」
「はい」実際、まともな糖分をとることがなかったのでそのアメは本当に美味しかった。
「あなたここに慣れてないって言ったわね」
「はい」
「なら私はあなたに迷惑をかけたかもしれない。私のことは忘れたほうがいいわ。
自分から隣きといてごめんね」
そういうとメリーは急に立ち上がって隣の車両へと歩き出す。
「待ってください」と私は言うが彼女はこちらに振り向きもせず隣の車両に消えていった。