「ゾンビ回収婦」 | F9の雑記帳

「ゾンビ回収婦」



 小砂川チト「ゾンビ回収婦」(『群像』2026年5月号所収)を読みました。
 この小説は、“AIに代替され失職した主人公(わたし)。夫は書き置きを残して旅に出てしまい、残された主人公はVRゲームの空間に作られたホテル(’ザ・グランド・口唇期ホテル’!)でNPCとして、他のプレイヤーからの攻撃で粉々になったゾンビの残骸を回収する掃除婦となるが、ある日格言めいた文句のタトゥー入りのゾンビの右腕を見つけ、そこから主人公の運命が動き始めて…。」と言った内容なのですが、格言めいたセリフの入った体の一部をあちこちで見つけたり、主人公がクマのぬいぐるみに悩みを聞いてもらううちに話が止まらなくなったり、ゲーム内の他のNPCについて人間と同じように扱ったり、あるゾンビに恋している自分に主人公が気付いたりすると言った内容も含めて、読んでいる間人に認めてもらっていないと考えて生きる人間の生きにくさについて何度か考えてしまいました。
 そして、小説の終盤で主人公の母親に現実世界に連れ戻されて入院したものの、主人公が入院先の病院内でもVRゲームの様に世界を捉える事しか出来なくなってしまっていて、自分が安心できる場所は現実世界にはない事を明確に理解し、自分らしくいられる場所に向かっていくと言う展開は、読み進めるにつれて複雑な気分になるとともに、(イヌイットが自身の事を自称する時に名乗る)「人間らしく(イヌクティトゥット)」(79頁)」と言う言葉の意味がしっかりした重量を持って胸に迫ってきた感じがしました。
 ああ、人間らしくというのは、本当に難しい事ですね…。