「空洞」
文藝賞受賞第一作。
語り手である会社員が大学のゼミで一緒だった人物の死を知った日の翌日、幼なじみの死を知る小説の序盤の展開には意表を突かれましたが、葬式に出るために勤務先の会社を辞めてしまったり、失業保険の基本手当の受給手続き中にかつての勤務先の会社の総務主任に電話で退職理由を会社都合に変えさせたり、大学で同じゼミに属していた男性達と居酒屋で食事をした時金を借りたいと言い出せず金を盗もうとするものの、金を盗んだのがバレるかもと不安になり彼の財布を彼の足元に投げたり、偶然マンションの部屋宛に届いた服やネックレスを(別人の物なのに)恋人にあげた上事情が分かった彼女に対して詭弁を弄したりする等、読み進めるにつれて次第に明らかになっていく語り手の姿に(ここまではやらないだろうとは思うものの)思わず自分を重ねてしまいそうになる場面が多かったです。
まあ、実際に語り手みたいな人物が身近にいたら、幾ら小説上の彼の姿が自分に重なる部分が多いと感じた僕でも、一度くらいは(元勤務先の会社の総務主任ではないですが)「君に関わりたいと思ってる人なんてどこにもいないから。」(253頁)と言ってしまいそうな気がしますが…。
そして、気に入らない事が起きると多分に暴力を振るう場合があるとは言え、彼女の語り手に対する態度は(最終盤に急展開が待っていたりはしますが)読んでいて「凄いな。」と思いました。
もっとも、本人が何もできないように手を打つ事こそが“空洞”を抱えて生きている、もっと言えば“空洞”しかない人への対処法かもしれません。
しかし、「私の獲物が、」の戸田那美も強烈でしたが、この小説の語り手も相当凄いですね…。
