『タイム・シェルター』

ゲオルギ・ゴスポディノフ『タイム・シェルター』(寺島憲治訳、早川書房)を読みました。
この小説は、“語り手のイシマエルは謎の男ガウスティンが開設した(認知症患者達の症状の改善を目指した)「過去のためのクリニック」のため、助手として家具やボタン等は勿論午後の光に至るまで失われた時代の断片を探し求める仕事に従事することに。
過去のためのクリニックの評判が高まり、過去の部屋や家あるいは同様の施設が各地に造られはじめるとともに、認知症患者達だけでなく患者の身近な人々に向けて解放すると言うガウスティンの決定により特定の年代に暮らしたいと望む人々がクリニックにやってくるようになり、更にもう一段階足を踏み出した時、世界全体に変化の兆しが見られるようになり…。」と言った展開を見せるのですが、憂鬱な場面は幾つかあったものの、(国民投票によってヨーロッパ諸国が過去の一時代を選択する展開を迎える中盤は特に)読んでいて面白く興奮しました。
何事にもその国独特の事情があるのが頭では分かっていたつもりでしたが、(小説上とは言え)いざ目の前に提示されると面喰らうものですね…。
そして、物語の終わりが近づくにつれて高まる(過去を含めた)時間の恐ろしさを示す描写は読んでいて切ない気分になりました。
なお、『タイム・シェルター』は著者の長篇第三作目。
イタリア語版でストレーガ・ヨーロッパ賞を受賞、英訳版でブルガリア人としては初のブッカー国際賞を受賞したとの事です。